急性期病院で働いている看護師の皆さん、クリニックへの転職を考えたことはありませんか?
「夜勤がないからワークライフバランスが取りやすそう…」
「急変対応のプレッシャーから解放されるかも…」
そう考えている人も多いかも知れませんね。
しかし、転職活動を具体的に進めていく前に、一度クリニック転職の妥当性について評価することがとても重要になります。
この記事では、急性期看護師さんがクリニックへ転職する際のメリットや注意点を解説し、クリニックの就業の実情についても紹介しています。
なお、筆者は元病院人事として様々な背景を持つ看護師さんの採用に関わってきました。
是非この記事を読んでいただき、今後のキャリアプランや転職活動の参考にしていただけるとうれしいです。
急性期からクリニックへ…転職を考えるのはどんな時?
「新卒で急性期病院に就職し、看護の基本を習得する」
そう先輩たちに聞かされて、今日も急性期病院で業務に励んでいる看護師さんはとても多いのではないでしょうか。
しかし、いざ働いてみると、
- 「業務が忙しすぎる」
- 「理想の看護が提供できない」
- 「人間関係に疲れた…」
このようにモチベーションの維持に悩んで、クリニックなど現状とは違う働き方を模索している看護師さんもたくさんいます。
クリニック転職を検討する理由
そんな急性期病院で働く看護師さんが、なぜクリニックへ転職したいと思うのか、改めてその理由について挙げてみたいと思います。
- 業務量を減らしたいから
- ワークライフバランスを改善したいから
- 責任の重さに対するプレッシャーをなくしたいから
- 複雑な人間関係から解放されたいから
- 看護の理想と現実のギャップを埋めたいから
- 専門性や興味分野へ集中したいから
クリニック転職のメリット
クリニックに転職したい理由を挙げてみましたが、実際、急性期看護師さんがクリニックへ転職した場合、どのようなメリットが得られるのでしょうか。具体的に考えていきたいと思います。
メリット➊:ワークライフバランスが向上する
クリニックは、基本的に日勤中心の働き方となります。診療曜日はクリニックによりますが、交代制による不規則な夜勤や休日出勤が少ないため、プライベートの時間を確保しやすくなります。
メリット➋:業務負担が軽減される
クリニックには急性期病院と比べて重症度の高い患者さんが少なく、緊急性の高い処置が少なくなります。
難度の高い看護業務が減るため、精神的・身体的負担が軽減されます。
メリット➌:患者さんとの関係性構築が図りやすい
クリニックは同じ患者さんと長期的に関わる機会が多いため、より地域に密着した深い関係性を築きやすい職場だと言えます。
そのため、看護師として地域の患者さんに対してきめの細かいケアを提供できます。
メリット❹:業務経験の幅が広がる
急性期から地域のクリニック看護まで、様々な業務を担当することで、看護師としての経験とスキルの幅を広げることができます。
クリニック転職のデメリット
クリニック転職のメリットを4点挙げてみましたが、その反面、クリニック転職で気を付けるべきデメリットはないのでしょうか。
以下、転職の前に認識しておくべきクリニック看護師のつらい側面について解説します。
デメリット➊:専門性が低下する
急性期病院で経験できる高度な医療や最新の治療に触れる機会が減ることになります。
また、クリニックの体制によっては受付や電話対応をする場合もあります。
そのため、専門的な看護スキルの維持・向上が難しくなる可能性があります。
デメリット➋:給与水準の維持が難しい
クリニックの規定にもよりますが、急性期病院と同等の給与水準の維持が難しくなる場合があります。
夜勤をしないで済む分、夜勤手当がなくなるため、収入が減少する可能性が高くなります。具体的な給与の実態については、また後述します。
デメリット➌:キャリアアップの機会が減る
クリニックは組織が小さいため、昇進や専門性を高める機会が限られる可能性があります。
急性期病院では委員会活動や勉強会をとおして得られた研鑽の機会が、クリニックでは少なくなる傾向にあるため、看護師のキャリアアップに影響が出るかも知れません。
看護師のキャリアプランの考え方について、以下の記事で解説しています。併せてご参考ください。

デメリット❹:仕事が単調になる
クリニックは急性期病院と比べると仕事の変化が少ない環境だと言えます。日々の業務を単調に感じて、やりがいを感じにくく思う看護師さんもいるかも知れません。
そのため、モチベーションの維持とスキルアップの継続が難しい職場環境と言えるでしょう。
以下の記事では、看護師さんにとっての「働きがい」について解説しています。是非ご参考ください。

デメリット❺:人間関係が濃い
クリニックはスタッフ数が限られるため、スタッフ間の接触頻度が高くなり、人間関係が濃くなる傾向にあります。
病院の病棟業務であればシフト勤務のため、日ごとに一緒に働くメンバーが変わりますが、クリニックの場合、ほぼ固定メンバーが毎日顔を合わせる可能性が高くなります。
コミュニケーションの苦手な人には息苦しさを感じる場合もあるかも知れません。
クリニック転職で後悔しないために確認すべきポイント

それでは、クリニックへ転職する前に必ず押さえておくべきポイントには、どのようなことが挙げられるのでしょうか。
ここでは、
- 仕事内容
- 給料
- 向いている人、向いていない人
- 転職の意外な難しさ
にポイントを絞って解説したいと思います。
ポイント➊:クリニックの仕事内容
始めに、クリニックの仕事内容について確認していきましょう。
クリニックは規模が小さくスタッフ数が限られるため、看護師でも幅広い業務を担当する場合があります。
つまり、クリニックではオールマイティーなスキルが求められるということです。
また、急性期病院と比べて緊急性の高い看護は少なくなり、医師が診察をスムーズに進めるための支援が中心となります。
クリニックの専門分野によっては、心臓カテーテル検査や内視鏡検査など特定の検査や処置の介助も行います。
地域密着型のクリニックでは、慢性疾患患者の長期的なケアや健康管理も重要な役割となります。
参考までに、クリニックでの看護師の主な仕事内容を紹介します。
①診療補助
- 問診・バイタルサイン測定
- 医師の診察補助
- 採血、心電図、レントゲンなど検査の介助
- 点滴、注射、ガーゼ交換など治療の補助
②患者対応
- 初診患者への問診
- 服薬指導・生活指導
- 電話対応
③事務・運営関係業務
- 診療器具の洗浄・消毒
- 物品の発注・管理
- 施設の清掃
- 看護記録の作成
ポイント➋:クリニックの給与の現状
クリニック看護師の給与は、実際どのくらいになるのでしょうか。
日本看護協会「2021年看護職員実態調査」から抜粋した以下の資料をご覧ください。
平均基本給額 | 平均税込給与総額 | 平均通算経験年数 | 平均勤続年数 | 平均年齢 | |
病院 | 277,696円 | 386,046円 | 17.0年 | 11.3年 | 40.2歳 |
診療所 | 259,062円 | 354,563円 | 19.8年 | 7.0年 | 44.2歳 |
訪問看護ST | 269,811円 | 367,775円 | 23.5年 | 7.3年 | 47.9歳 |
介護施設 | 257,822円 | 346,236円 | 23.5年 | 6.7年 | 48.9歳 |
出典:日本看護協会「2021 年 看護職員実態調査」98.pdf
クリニック(診療所)と病院で比べると、クリニックは月額の平均基本給で18,634円少なく、比率にして6.7%低い金額になっています。
月の差額を単純に12倍した年額では、病院より223,608円低くなる計算になります。賞与の計算は基本給が計算の基礎となるため、年収ベースで考えるとさらに低くなる可能性が高いと言えます。
なお、看護師さんの給与条件の確認の仕方について、以下の記事で解説していますので併せてご参考ください。

ポイント➌:クリニック勤務に向いている人・向いていない人
それでは、実際にどのような看護師さんがクリニックに向いているのでしょうか。
向いているタイプと向いていないタイプ、それぞれ表にまとめてみたいと思います。
向いているタイプ | 向いていないタイプ |
より地域に根差した医療に貢献したい人 | 高度な医療技術や最新の治療法に触れていたい人 |
地域の患者さんや周りのスタッフとの信頼関係維持が得意な人 | 急性期や緊急時の対応に看護のやりがいを感じる人 |
幅広い業務に柔軟に対応できる人 | 規模の大きい組織でキャリアアップを目指したい人 |
私生活の安定を重視したい人 | 給与の高さを優先したい人 |
ポイント❹:クリニック転職の意外な難しさ
クリニックへの転職の難易度はどの程度なのでしょうか。
実際には、そう簡単には転職できないのが現状のようです。特に人気のあるクリニックや専門性の高いクリニックへの転職はさらに難しくなる傾向にあるため、それ相応の覚悟が必要になるでしょう。
クリニックへの転職を成功させるためには、
- 自身のキャリアを活かせる職場を選ぶこと
- 応募書類の質を高めること
- 面接対応を十分に準備すること
などが重要になりそうです。
以下、クリニックへの転職の意外な難しさについて解説します。
意外な難しさ➊:競争率が高い
人気のクリニックには応募者が多く、看護師1人の募集に対して10人以上の応募が集まる美容クリニックもあるようです。
候補先を絞り込み過ぎると、転職活動が長期化するリスクがあります。
意外な難しさ➋:選考基準が厳しい
人気の美容クリニックでは、経歴や転職回数に留まらず、コミュニケーション能力や言葉遣い、容姿に至るまで、総合的に判断して採用する傾向にあるようです。
履歴書の写真が重視される場合があるなど、病院とは異なる採用基準が設けられる場合があります。
いかにこのことを念頭に置いて転職活動に臨んでいけるかが大事になります。
意外な難しさ➌:即戦力として要求される
クリニックは教育体制が整っていない傾向にあるため、転職後にじっくりスキルを身につけるというのではなく、即戦力となる看護師を求めています。
つまり、看護師としての臨床経験や実務経験がより重視されるということが言えます。
意外な難しさ❹:専門性が要求される
特定の診療科に特化したクリニックでは、その分野での経験や専門知識が求められます。
急性期病院で培ったこれまでの経験が活かせない場合、採用されにくい可能性があります。
転職する前に試したい!急性期病院での働きやすさを改善する方法

クリニックへの転職を具体的に考える前に、まずは今抱えている不安や不満が今の職場で解決できないか、考えてみることをお勧めします。
つまり、内部異動であなたの不安や不満の解消ができないのかを考えるのです。
以下の2つの例から、どのように解消していくべきか考えてみたいと思います。
CASE1:「今の部署が自分に合わない…」
素直に希望部署の意思表示を
まず、率直に希望の部署へ異動がかなうか上司と相談してみることをお勧めします。
全て希望どおりにいくとは限りませんが、職場によっては年度の前期と後期など、定期的に上司との面談を行って希望を聴取するところもありますので、是非その機会を活かしましょう。
誰にでも仕事の適正があることを認識する
仕事の適性が合う、合わないというのは誰にでもあることです。
急性期病棟は、常にキビキビ動ける人でないと日々の業務についていくことが難しく、患者との関りも希薄になるため、看護師としてのやりがいを模索している人も少なくないでしょう。
もし環境を変えたいと考えている場合、比較的ゆったりとした病棟への異動を打診して、それで異動がかなえば、同じ職場で自分の経歴が途切れることなく新たな看護師経験を蓄積することができます。
CASE2:「夜勤がきつくて仕事が辛い…」
速やかに夜勤負担軽減の意思表示を
まず、上司にしっかり理由を打ち明けたうえで夜勤回数を減らしてもらうことができるか相談すること。
担当の患者さんにも影響が及ぶ可能性があり、シフト作成の手続きの関係から考えてもなるべく早い時期に相談しましょう。
夜勤負担の少ない部署への異動を打診
夜勤負担軽減の相談をしたものの、それが難しい場合もあります。
このままさらに夜勤を重ねると、その影響から仕事面に支障をきたし、患者さんにまで影響を及ぼす恐れがあります。速やかに夜勤の負担が軽い部署への異動を打診しましょう。
日勤のみの部署は少ない
日勤部署への異動を打診したとしても、全く夜勤がない、という部署は少ないのが現実です。
内視鏡室や手術室は、夜勤の負担が一般的にはない部署になりますが、その代わりに緊急呼び出しや時間外勤務が発生しやすいので注意が必要です。
健診部門も夜勤がない部署として人気が高いですが、出張によるバス健診を行う場合、早朝からの出勤や土日出勤があるなど、勤怠が不規則になる可能性があります。施設によっては救急外来での夜勤に組み込まれる可能性もあるため、事前確認が必要です。
自分のなかでの優先順位付けがポイント
部署によって条件が様々変わるため、同じ職場で異動の可能性を考える際には、部署ごとの条件を見極めて、あなたのなかでどのような優先順位を付けて折り合いをつけるのかがポイントになります。
なお、異動か転職か、悩みを感じたときの事前準備について、以下の記事で詳しく解説しています。併せてご参考ください。

それでも転職したいなら…後悔しないための職場選びのコツ

コツ➊:「選ぶべきクリニックと避けるべきクリニック」を知っておく
クリニックに転職、と言ってもたくさんのクリニックがあり、しかもそれぞれに特徴があるため、職場選びで迷ってしまいますよね。
実際、急性期病院からクリニックへ転職する場合、どのような特徴を持つクリニックを選ぶべきなのでしょうか。避けるべきクリニックとともに挙げてみたいと思います。
選ぶべきクリニックとは
- 教育体制が整っている
- スタッフ間のコミュニケーションが良好
- 患者中心の医療を実践している
- 地域医療に積極的に貢献している
避けるべきクリニックとは
- スタッフの離職率が高い
- 労働条件が不明確・不適切である
- 医療安全や感染に対する意識が低い
- 患者とのコミュニケーションを軽視している
コツ➋:「スキルの維持・向上の方法」を知っておく
先ほど、クリニック転職のデメリットとして、専門性の低下やキャリアアップの機会が減ることを指摘しました。クリニックに転職すると、どうしても看護師としてのスキル維持が難しいというのが現実かも知れません。
しかし、以下のような姿勢を保つことができれば、看護師としてのスキル維持・向上が可能になります。
継続的に学習する
医療雑誌の購読や、オンライン講座の受講など、最新の医療情報を積極的に学び続けることが重要です。
ワークライフバランスを向上させつつも、必ず自己啓発の時間を確保し、知識のアップデートを心がけましょう。
研修への積極的な参加
外部の研修やセミナーに積極的に参加し、新しい知識や技術を習得し続けることが重要です。
クリニックでは研修の機会が限られる可能性があるため、自ら学習の機会を探して参加する姿勢が大切になります。
他施設と連携してスキルアップ
近隣の病院や他のクリニックと連携してスキルアップを図ることができます。
連携先の症例検討会や勉強会に参加することで、看護師として様々な経験や知識を共有することができるため、必ずスキルアップにつながります。
資格取得を目指す
専門看護師や認定看護師などの資格取得を目指すことで、専門性を高めることができます。
クリニックでの経験を活かしつつ、より高度な知識を身につけていく姿勢が重要です。
コツ➌:「クリニック転職成功モデル」から学びを得る
最後に、急性期病院からクリニックへ転職した看護師さんの成功モデルを2つご紹介します。
2つの例から、急性期病院からクリニックへの転職は、ワークライフバランスの改善や新たなスキル獲得の機会となり得ることがわかります。
モデル①:新卒で急性期病院を3ヶ月で退職した看護師Aさんの例
- Aさんは新卒で入職した急性期病院を3ヶ月で退職。
- 短期間で退職したことに自責の念に駆られていました。
- キャリアアドバイザーの支援を受け、19床の有床診療所に非常勤として転職することに。
- 現在は心身ともに安定した環境で勤務。
- スタッフに大切にされながら看護師としてのキャリアを継続。
モデル②:整形外科の経験を活かした看護師Bさんの例
- Bさんは整形外科を中心として急性期病院に長く勤務。
- その後5年間の海外生活を経て帰国しました。
- 5年間のブランクに不安を感じていましたが、とある健診施設に転職決定。
- この転職で次の3点を叶えることができました。
①日勤のみの勤務となり、家庭との両立が可能になった。
②海外生活で得た英語力を活かせる職場環境に身を置くことができた。
③内科領域の経験を積む機会を得られ、キャリアの幅が広がった。
まとめ
この記事では、急性期看護師さんがクリニックへ転職する際のメリットや注意点、クリニックの就業の実情について紹介してきました。
急性期の看護師さんがクリニックへ転職するメリットとして、
- ワークライフバランスが向上する
- 業務負担が軽減される
- 患者さんとの関係性構築が図りやすい
- 業務経験の幅が広がる
の4つのメリットを挙げました。
しかし、自分に合った働き方を見つけ、転職を成功させるためにも、
- まずは今の職場でできることを試してみること
- クリニック転職の注意点や給与を含めた勤務条件の現実をしっかり把握すること
これらのことがとても重要になります。
この記事を参考に、転職を考えている看護師さんの有意義なキャリア形成に役立てていただけると幸いです。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。