看護師から事務職への転職は可能か?元病院人事が成功のための手順を解説

ノートパソコンに入力する笑顔の女性事務員

「看護師としての適正に疑問が…」

そう感じているあなたは、もしかすると事務職への転職を検討したことがあるかも知れませんね。

ただ、看護師の道をまっすぐ進んできた分、看護師以外の仕事のことはよくわからないことが多いのでは?

これから全く別の職種にキャリアチェンジを図ろうとしたときに、どんな準備が必要か、そもそも転職自体うまくいくのか。いま適切に見極めることが大事です。

本記事では、事務職に転職する場合のメリット・デメリットや成功可能性について解説し、転職までの手順についても紹介しています。

なお、筆者は元病院事務職として25年以上のキャリアを持ち、事務部門のほぼすべての部署を経験しています。

この記事を読んで、今後のキャリアプランや転職活動の参考にしていただけるとうれしいです。

目次

そもそもなぜ事務職へ転職したいのか?

「看護師から事務職に転職なんてできるの?」

「事務の経験なんてないから、周りについていけないのでは?」

事務職未経験の看護師さんなら、そう考えてしまいがちですよね。

結論から先に申し上げると、看護師から事務職への転職は十分に可能です。特に医療関連の事務職であれば、看護師としての経験が評価され、転職の成功確率は高くなります。

ただし、成功するには必要な条件をクリアする必要があります。必要な条件については、後ほど説明します。

ここでは、始めに、なぜ看護師さんが事務職へ転職したいと考えるのか、について考えてみたいと思います。

主に以下の理由が考えられそうです。

理由1:精神的なプレッシャーから解放されたい

看護師は、自身のスキル次第で患者さんの健康状態を左右する責任の思い仕事です。

患者さんの命に直接関わる責任の重さから解放されたいという思いが理由として考えられます。

理由2:身体的な疲労を解消したい

看護業務はとてもハードです。時間内に仕事が終わらず長時間労働が続き、夜勤で生活のリズムが崩れ、疲労がたまっていきます。

そのうえ、休みの日にも家で勉強が必要になるなど、疲れが解消できないことが理由として考えられます。

理由3:キャリア成長の限界を感じる

日々仕事をしていくなかで、看護師の適正がないと自信を失いかけている人は少なからずいます。そもそも血を見ることに抵抗がある人もいるかも知れません。

看護師に向いてないと感じ、看護師としての将来のキャリアパスに不安や限界を感じていることが理由として考えられます。

看護師の適正に疑問を感じたときにとるべき思考法について、以下の記事で解説しています。是非、ご参考ください。

理由4:ワークライフバランスを充実させたい

ワークライフバランスが乱れ、心身ともに健康的に働くことができていない看護師さんはとても多いように感じます。

長時間労働や夜勤などの不規則な勤務体制から、より規則的な生活リズムを求めていることが理由として考えられます。

医療機関か、医療機関以外か?転職先別にみる事務職のメリットとデメリット

看護師さんが事務職に転職するのは十分可能と説明しましたが、実際に事務職に転職した場合の利点や注意点などはあるのでしょうか。

ここでは、

  1. 医療機関の事務職に転職した場合
  2. 医療機関以外の事務職に転職した場合

の2パターンに分けて考えていきたいと思います。

1.医療機関の事務職に転職する場合のメリット・デメリット

まず、病院の事務職に転職する場合を考えてみたいと思います。

病院の事務職のなかでも医療事務は、看護師の経験を直接活かしやすい職種のひとつです。

医療事務は、患者さんの受付や会計の対応、診療報酬の請求やカルテ管理などが業務の中心になります。そのため、それまでの医療現場での知識が大いに役立ち、スムーズな転職が可能になります。

医療機関の事務職:メリット

  • 医療知識を活用できる
    医療の事務分野においても看護師の経験や知識を直接活用でき、スムーズな業務への適応が期待できます。
  • 心理的な負担が少ない
    病院という馴染みのある環境で働けるため、心理的な負担が比較的少なくて済みます。
  • 現場視点を活かし経営に貢献できる
    看護師時代に培った現場視点を運営に取り入れることで、医療機関の経営に貢献できます。

医療機関の事務職:デメリット

  • キャリアが限定される
    デスクワークが多く、看護技術の維持は難しくなります。医療事務に関しては他業界へのスキルの転用が難しく、将来のキャリア形成の選択肢が限定される可能性があります。
  • 計画的なキャリア形成が必要
    キャリアラダーやクリニカルラダーといったキャリア上の指標がある看護師とは異なり、医療機関の事務職はキャリアパスが明確化されていない場合が多いです。そのため、自身による意識的なキャリア形成が求められます。
  • 給与が下がる
    一般的に、事務職の方が看護師よりも給与水準が低くなる傾向があります。後ほど詳しく説明します。

2.医療機関以外の事務職に転職する場合のメリット・デメリット

次に、医療機関以外の事務職に転職する場合を考えてみたいと思います。

医療機関以外での候補先は、後ほど紹介する製薬会社や医療機器メーカーなど一般企業が考えられます。

これら一般企業への転職の場合、医療機関内での事務職への転職に比べ、新しい環境への適応面で課題があることは認識しておく必要がありそうです。

医療機関以外の事務職:メリット

  • 新しい経験から視野が広がる
    異なる業界で働くことで視野が広がり、新たなスキルを習得できる機会が得られます。
  • ワークライフバランスが充実する
    多くの一般企業では、看護師よりも規則正しい勤務体制が期待できます。
  • 看護師時代の一般スキルが活かせる
    コミュニケーション能力やアセスメント能力、時間管理能力など、看護師として培ったスキルを一般企業でも活かすことができます。

医療機関以外の事務職:デメリット

  • 専門性発揮の機会が限られる
    看護師として培った専門技術を直接活かす場面が限られます。そのため、一般企業の業務内容に応じた新たなスキルの習得が必要です。
  • 環境変化によるストレス
    医療現場とは全く異なる企業文化や仕事の進め方に適応する必要があります。そのため、環境変化によるストレスを感じる可能性があります。
  • 給与低下の可能性がある
    採用される企業によっては、看護師の給与より年収ベースで高くなる場合はあります。しかし、一般的には、事務職の方が給与水準が低くなる傾向にあります。後ほど詳しく説明します。

医療事務とその他病院事務との違いとは

病院の事務職として働く場合、さきほど紹介した医療事務とは別に、総務や経理などを担当する事務職もあります。医療事務とその他の病院事務の主な違いは、

  1. 勤務先の規模
  2. 業務の範囲
  3. 裁量の範囲

などにあります。これらの違いについて、表で説明したいと思います。

1.「勤務先の規模」による違い

医療事務病院事務
クリニックから病院まで、幅広い医療機関で働くことが多いです。病床を有する中小規模病院から大規模病院で働くことが多いです。

2.「業務の範囲」による違い

医療事務病院事務
主に患者さんの受付や会計業務、レセプト業務に特化することが多いです。言わばスペシャリストタイプになります。病院では主に医事課に配属されます。

医事課に属するスペシャリストタイプには、医師事務作業補助者や診療情報管理士といった職種もあります。
総務、人事、経理、医事、経営企画など、病院運営に関わる幅広い業務を担当します。言わばゼネラリストタイプで、将来の経営を担う幹部候補となる場合が多いです。

3.「裁量の範囲」による違い

医療事務病院事務
患者さんの対応やレセプト業務に特化するため、運営上の裁量の範囲は比較的限られます病院の運営に関わる業務を担当するため、より裁量を持って働く機会があります。

医療機関以外の事務系職種にはどんな仕事があるのか

医療機関の事務職には、主に医療事務と病院事務があることがわかりました。

それでは、医療機関以外の一般企業の事務系職種にはどのような仕事があるのでしょうか。

看護師一筋で働いてきたあなたにとって、一般企業で働くというのはなかなか想像できないかも知れませんが、実は今働いている医療機関にも頻繁に出入りしていたり、馴染みの深い職業もあるのです。

看護師に有利な事務系7職種

ここでは、以下の7業種(職種)を紹介したいと思います。

  • 製薬会社(MR)
  • 治験コーディネーター
  • 医療機器メーカー(クリニカルスペシャリスト)
  • 医療系IT企業
  • 看護師人材紹介会社
  • 介護施設
  • 健康保険組合

これらの職種では、看護師としての知識と経験が評価されやすく、実務に活用できる可能性が高いため、比較的スムーズな転職が期待できます。

また、前述したとおりコミュニケーション能力など、看護師として培ったスキルも活かすことができると考えられます。

➊製薬会社(MR)

医薬品に関する知識を活かし、医薬情報担当者(MR)として営業の分野などで活躍できます。

➋治験コーディネーター

医療知識を活かし、治験の管理や被験者対応を行えます。勤務場所も医療機関が中心になるため、慣れた環境で働くことができます。

➌医療機器メーカー(クリニカルスペシャリスト)

医療機器の知識や実際に使用してきた経験を活かし、営業サポートや顧客となる医療現場対応などで強みを発揮できます。

❹医療系IT企業

NECや富士通など電子カルテで馴染みのある会社が医療系IT企業です。医療現場のニーズを理解し、システム開発や顧客サポートに貢献できます。

❺看護師人材紹介会社

看護師として働いてきたリアルな経験をもとに、求職者と求人病院とのマッチングに貢献できます。看護師専門の人材紹介会社が複数あるため、転職候補の一つと考えられます。

❻介護施設

医療機関と介護施設の連携に関する知識を活かし、施設運営や利用者対応に貢献できます。

❼健康保険組合

医療保険制度の理解や健康管理の知識を活かせます。

看護師 vs. 事務系職種:給料等を徹底比較!

看護師と事務職の給料を比較すると、資格の有無や専門性の高さの違いにより、事務職の方が給与水準が低くなることが一般的です。

それでは、実際、どれ程の差があるのでしょうか。

看護師、医療事務、MRを比べた結果…

ここでは、①看護師、②医療事務、③製薬会社(MR)の3職種を比較して表にまとめてみました。

①看護師②医療事務③医薬情報担当者(MR)
平均年収508.2万円478.3万円579.5万円
求人賃金(月額)25.5万円19.3万円25.2万円
平均年齢40.9歳43.5歳41.5歳
有効求人倍率2.31倍2.00倍1.37倍
看護師と事務系職種の給与等比較表
※職業情報提供サイト(日本版O-NET)job tagより引用し筆者まとめ

引用:ホームページ | job tag(職業情報提供サイト(日本版O-NET))

給与等比較のポイント

上記の表のポイントをまとめると、以下の3点になります。

  1. 夜勤手当の有無
    看護師には、夜勤回数に応じて夜勤手当の支給があるため、年収を押し上げる要因となっています。
  2. 営業手当の有無
    医薬情報担当者(MR)には、営業手当や出張手当の支給があることや、営業成績による歩合制を採用する企業もあります。そもそも外資系企業が含まれるため給与設定が高く、年収を押し上げる要因となっています。
  3. 有効求人倍率の差
    表の有効求人倍率だけを見ると一番就職しやすいのは看護師(2.31倍)で、最も就職しづらいのが 医薬情報担当者(MR)(1.37倍)となります。

有効求人倍率とは…
求職者一人に対して何社が求人を出しているかを示す数字

給与等比較の注意点

上記の表を参考に比較、検討する場合に意識しておきたい点について、以下にまとめました。

  1. これらの数値は平均的なものであって、個人の能力や勤務先の規模、地域などにより当然異なります。
  2. 看護師の給与は、看護師としての経験年数が反映されやすい賃金体系が多いです。資料からは読み取れませんが、それだけ看護師の国家資格としての価値が高いことを念頭に置いて、キャリアチェンジの検討を行うことをお勧めします。

看護師から事務職への転職:成功のための条件とは?

冒頭でも説明したとおり、看護師から事務職への転職は十分に可能と考えます。

特に医療関連の事務職であれば、看護師としての経験が評価されやすく、転職の成功確率はより高くなるでしょう。

ただし、事務職への転職を成功させるには4つの条件があります。以下の条件をクリアすることで、事務職転職への成功の道が開けてきます。

条件1:勤務条件を明確にする

現場を離れ、これまで看護師として培ってきた知識、技術、経験を他分野へ転用する限りは、あなたが将来にわたり本当に希望する分野、仕事内容、給与、勤務地などの勤務条件を明確にすることが重要です。

これが不明確なまま転職活動を進めた場合、採用担当者にあなたの想いが刺さらず、本来の志望先への転職機会を逃すことや、本来の希望と異なる応募先に転職してしまうミスマッチが発生する可能性があります。

そのためには、徹底した自己分析が必要です。以下の記事で自己分析の方法について解説していますので、ご参考ください。

条件2:スキルの活用方法を具体化する

自己分析を徹底的に行い、看護師としての経験を新しい職場でどのように活かせるのか、具体的に説明できるようにすることが大事です。

そのためには、あなたがこれまで培ってきた看護師としての経験や知識、スキルを全て棚卸する必要があります。そして、棚卸するときに重要なことは、紙に書き出すなり、PCに入力して整理するなり、必ず言語化することにあります。

頭でイメージするだけでは、採用担当者を納得させるほど具体的な自己PRが難しくなりますので、必ず言語化するようにしましょう。

条件3:情報収集を徹底して行う

あなたが心から希望する勤務条件に照らしながら、徹底して情報収集を行うとともに、業界分析や企業分析を行い、ミスマッチを防ぐことが成功への鍵となります。

一般企業への転職であれば、右も左もわからないはずです。なおさら幅広く、様々な角度から情報を集める意識が大切です。

条件4:転職支援を積極的に活用する

一般企業を含めた転職となると、どこから手を付けていいのか迷ってしまうでしょう。

時間を効率的に使うためにも、始めから転職サイトに登録し、転職エージェントなど専門家のサポートを受けることで、より適切な求人情報や転職アドバイスを得られ、成功確率をより高めることができます。

看護師専門サイトになりますが、転職サイトの活用方法について以下の記事で解説していますので、併せてご参考ください。

看護師から事務職に転職するための5ステップ

付箋に「STEP1」から「STEP4」まで順に矢印で書かれたイラスト

看護師から事務職への転職は、いくつかの条件をクリアすることで成功に近づけることがわかりました。

それでは、実際に看護師から事務職に転職する際、どのような手順を辿ればいいのでしょうか。

具体的な手順は、以下の5ステップとなります。

STEP1:情報収集

まず、転職先の業種や職種をリサーチすることから始めます。

転職サイトや企業の公式サイトを利用して、興味のある職種や自身のスキルを活かせる職種の仕事内容、必要なスキル、資格、募集条件などを確認します。

転職エージェントは履歴書作成や面接対策などの支援も行ってくれるので、上手に活用することをお勧めします。

STEP2:自己分析

次に、自己分析を行い自分の強みやアピールポイントを洗い出します。

看護師として培ったスキル、経験、資格、知識を整理し、転職先の職種で必要とされるものと照らし合わせて、アピールポイントを考えます。

STEP3:スキルの習得

必要になるスキルや資格の習得も行います。

転職先の職種に必要なスキルや資格がある場合は、勉強会や講座に参加するなどして習得します。医療現場で教わる機会が少なかったビジネスマナーなども重要ですね。これらの知識も身につけるようにしましょう。

医療事務へ転職する場合、医療事務管理士など医療事務系の資格取得も検討が必要です。看護師経験を活かしつつ、計画的に学習を進めていきます。

STEP4:履歴書や職務経歴書の作成

看護師としての経験やスキルに焦点を当て、自己PR文をまとめて履歴書や職務経歴書を作成します。

ここで大事なのは、転職先の業種・職種に合わせて自己PR文をアレンジして作成することです。

STEP5:希望先への応募・面接

最後に、転職先として固まった候補企業の求人内容を最終確認し、応募します。

面接当日に勤務条件の話が出てもいいように、あなたが希望する勤務条件はしっかり伝えられるように確認しておきます。

転職エージェントを利用する場合、希望先に応じた面接対策などの支援もあるので、積極的に利用しましょう。

まとめ

本記事では、看護師さんが事務職に転職する場合のメリット・デメリットや成功可能性、また転職までの手順について解説してきました。

看護師から事務職へ転職を成功させるには、

  1. 勤務条件を明確にする
  2. スキルの活用方法を具体化する
  3. 情報収集を徹底的に行う
  4. 転職支援を積極的に活用する

の4点を条件として挙げました。

この記事を参考に、看護師さんが事務系職種に転職するうえでの準備に役立てていただけると幸いです。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
看護師さんの働き方や転職活動のこと、病院人事担当者の本音などを発信しています。今後ともよろしくお願いします。

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