Q. お礼奉公中の看護師でも、転職を考えることはできるのでしょうか?
「お礼奉公期間中」に、転職を考えることに躊躇する看護師の方もいるでしょう。
しかし、状況を正しく理解したうえで選択肢を整理すること自体は、十分可能です。
結論:お礼奉公期間中の転職を考え始めたときに整理すべきこと

結論から言うと、お礼奉公中でも転職について考えることは可能です。ただし、契約内容や制度を正しく理解したうえで、自分の状況や優先順位を整理することが出発点になります。
お礼奉公とは、簡単に言うと、看護学生時代に奨学金を受けた病院に一定期間働く仕組みのことです。
この期間中でも、転職自体が法的に禁止されるわけではありません。
しかし、お礼奉公の仕組みを誤解したまま動くと、
- 「違約金が発生した」
- 「早期退職が不利になる」
といった問題につながる可能性もゼロではありません。
まずは 自分の義務と権利を整理することが出発点です。
お礼奉公中に転職を考える背景

それでは、なぜ、お礼奉公中の看護師が転職を考えるのか。その背景について考えてみます。
◉背景1:キャリアアップを求めて
お礼奉公期間中でも、より専門的なスキルを身につけたい、または異なる診療科で経験を積みたいという思いから転職を考える場合があります。
◉背景2:労働環境に不満がある
お礼奉公先で過酷な勤務体制やハラスメントなどの人間関係の問題、それに伴う心身の健康状態の悪化など、現在の職場環境に不満を感じて転職を考える場合があります。
◉背景3:キャリアビジョンが変わった
看護師として働く中で、自身の適性や興味が変わり、当初の計画とは異なるキャリアパスを望むようになる場合があります。
例えば、以下の2つの記事にあるように、急性期から慢性期看護への転換や、保健師を目指すなどの理由が考えられます。


◉背景4:家庭の事情による転居など
結婚や家族の事情など、個人的な理由で転居が必要になった場合、現在の病院での勤務が継続できなくなることがあります。
◉背景5:適性やスキルにミスマッチを感じて
お礼奉公先の病院で求められるスキルや業務内容が、自身の適性や希望と合わない場合、より自分に合った職場環境を求めて転職を考える場合があります。
以下の記事では、看護師が転職を考え始めたときに行うべき心の準備について解説しています。併せてご参考ください。

お礼奉公のメリット・デメリット

そもそも、看護師がお礼奉公で就職することに、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。
お礼奉公のメリット
メリット①:経済的負担が軽くなる
学生時代に借りた奨学金の返済が免除される場合が多いため、学費や生活費を心配することなく、看護師資格の取得に集中できます。
奨学金制度を活用することで、経済的な理由で進学を諦めることなく、看護師としてのキャリアを築くことができます。
メリット②:就職先が確保できる
看護学校卒業後の就職先が半ば保証されているため、就職活動の不安や負担が軽減されます。
人気のある病院を志望する場合、通常の新卒採用ルートよりも就職しやすくなる場合があります。
メリット③:キャリアが安定する
新卒から一定期間同じ病院で働くことで、基礎的なスキルや経験を着実に積むことができます。
こうした経験は、看護師としての将来のキャリア形成において、とても重要な基盤となります。
お礼奉公のデメリット
デメリット①:就職先が制限される
奨学金を借りた病院での就職を半ば強制されるため、奨学金を借りる時点での就職先の見極めがとても重要になります。
自身の価値観やキャリアプラン、就業条件と合わない場合、就職後に不満が生じる可能性があります。
デメリット②:退職しづらい
お礼奉公期間中に退職する場合、奨学金の即時返還や違約金を求められるリスクが考えられます。
そのため、現実的には退職へのハードルが高くなると言えます。
デメリット③:労働条件が不明確になりやすい
給与や労働条件はもとより、奨学金の返済方法など具体的な貸与契約の内容が明示されない場合、就職後に不利な労働条件を強いられるリスクがあります。
転職自体は可能だが、まず確認すべきこと

転職を“禁止する法律”はありませんが、お礼奉公に関する取り決めは契約として存在します。
ここでは、お礼奉公の契約にはどのようなルールがあるのか、またお礼奉公期間中の退職で注意すべきリスクについて解説します。
◉お礼奉公ルールのポイント
ポイント①:退職の自由がある
法令により、お礼奉公中であっても退職する権利が認められています。
期間の定めのない雇用(正規職員)の場合、退職の申し出から2週間後に退職できることが民法に定められています。
民法
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第627条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
ポイント②:奨学金の即時返済を求められる
お礼奉公期間中に退職を申し出た場合、貸与された奨学金の即時返済を求められるケースが多くあります。
ポイント③:契約に沿った対応が必要
奨学金貸与に係るお礼奉公の具体的な期間や条件は病院によって異なります。病院との個別の契約書や奨学金貸与要領などの内容を確認することが重要です。
ポイント④:円満退職を心掛ける
法的には自由に退職できますが、看護師としての将来のキャリアに対する影響を考慮して、できる限り円満に退職することが望まれます。
◉事前に認識すべきリスク
退職する自由はあるものの、お礼奉公期間中に退職する場合には、以下のようなリスクがあることも認識しておく必要があります。
リスク①:奨学金の即時返還
前述したとおり、お礼奉公期間中に退職を申し出ると、病院側から貸与した奨学金の即時返還を求められる可能性があります。
そのため、まとまった金額の返還金を準備するだけの経済的な余裕が必要になります。
リスク②:違約金の請求
病院から違約金等を請求される不安もあるかもしれません。
個別の契約内容にもよりますが、原則として、労働契約の不履行を理由とした違約金の設定は労働基準法に抵触する可能性があります。後ほど詳しく解説します。
リスク③:キャリアへの影響
お礼奉公期間中の退職は、自身の将来のキャリアに影響を与える可能性が考えられます。
特に地方の場合、医療業界内でのネガティブな評判につながり、今後の転職に悪影響を及ぼす可能性がゼロではありません。
リスク④:人間関係の悪化
お礼奉公期間中の退職を表明した後、残りの勤務期間中は、人間関係が悪化した状況で就業し続けなければならないリスクが考えられます。
そうした状況では、有給が希望通り取れないことや、心身に負担のかかる勤務表が組まれるリスクもゼロではありません。
リスク⑤:過剰なストレス
お礼奉公期間中の退職をめぐって病院側と揉めた場合、日常の労働に加えて、トラブルに係る時間と労力、そして精神的なストレスを伴う可能性があります。
◉違約金が発生する?
お礼奉公中に違約金が請求されるとしたら、以下のような事例が考えられます。
契約に基づく違約金請求
「お礼奉公期間中に退職した場合、貸与した奨学金に加えて違約金を支払うこと」
とする契約を締結した場合が想定されます。
前述したように、労働基準法では、労働契約の不履行(退職等)を理由とした違約金の設定は認めていません。
個別の契約内容にもよりますが、上記のような契約をもとに違約金の請求があった場合でも、法的には無効になる可能性があると考えられます。
労働基準法
(賠償予定の禁止)
第十六条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
奨学金未返済による損害賠償請求
奨学金を返済しないまま退職した場合は、病院側が損害賠償を請求するケースが考えられます。
これについても労働基準法第16条に抵触する可能性がありますが、いずれにせよ個別の契約内容の精査が必要になります。
一括返済の強要
奨学金の返還請求自体は有効だと考えられますが、即時に一括で貸与金額の返還を病院から強要されるケースが想定されます。
この場合、実質的に高額な違約金と同様の負担となり、看護師の退職を妨げる要因になり得るため、一括返還の是非について法的判断が必要な場合も考えられます。
◉トラブル回避のための対処法
お礼奉公中の退職には、トラブルが発生する可能性が否定できません。
もし、トラブルまで進展してしまいそうな場合には、以下のことに注意を払いましょう。
- 奨学金返済については分割払いなど柔軟な交渉を試みること。
- 違約金や損害賠償を請求された場合は、労働基準監督署等の行政窓口や弁護士等の専門家に相談すること。
- 労働者側が著しく不利益になるような不当な契約内容については、法的対応も視野に入れること。
どのように思考を整理すればよいか

転職を検討するときは、まず思考整理のステップを踏むことが大きな助けになります。
◉ STEP1:契約内容を自分の言葉で書き出す
以下の契約内容について、1つずつ自分の言葉に置き換えて書き出します。
- 制度名
- 義務期間
- 違約金
- 就労条件など
◉ STEP2:「自分の優先順位」を明確にする
以下のどの要素が自分にとって最優先かを整理します。
- 体力面
- 家庭環境
- 将来のキャリア
◉ STEP3:選択肢のメリット・デメリットを並べる
例えば以下の選択肢を整理し、メリット・デメリットを可視化します。
- 継続する場合
- 契約期間満了後の退職
- 中途退職
実際に転職を考える場合の注意点

転職活動を進める場合でも、以下の点を念頭に置くと安心です。
◉信頼できる人に相談する
契約内容やキャリアの悩みは、自分だけで判断しないことが大切です。
可能であれば、キャリアコンサルタントや社労士など、第三者視点の意見を聞くことも有効です。
◉情報収集は丁寧に
もし転職を考える場合には、希望先の求人票だけでなく、以下の項目も確認しましょう。
- 就業規則
- 契約形態
- 周囲の評判
◉自己PRと経験整理
看護師として培った知識や対応力は、他の職種でも活かせる強みです。
これを言語化することで、次のキャリアでも自信が持てます。
以下の記事では、後悔しない選択肢を考えるうえで必要な自己分析の方法を紹介していますので、併せてお読みください。

まとめ

この記事では、お礼奉公中の看護師が転職を考える場合のポイントについて解説してきました。
お礼奉公中であっても、転職を考えること自体は可能です。
ただし、まずは「契約内容と自分の価値観」を整理することが出発点になります。
転職=逃げではなく、次の働き方やキャリアを考える意思として、冷静に現状を見つめ直してみてください。
※お礼奉公や契約に悩んだときも、まずは自分の状況を整理することから始めましょう。
看護師が「辞めたい」と感じたときに、最初に整理すべき3つの視点
お礼奉公という制約がある中で、それでも転職を考えてしまう場合は、
▶︎ 看護師が「転職していいのか迷ったとき」に考えるべき3つの視点
で、焦らず判断するための考え方を整理しています。
よくある質問(FAQ)

お礼奉公中に辞めると違約金は必ず発生しますか?
契約内容によります。
奨学金の補助があるケースでは返還義務が生じることがありますが、法律で一律に「必ず発生する」とは限りません。
契約内容を確認することが第一歩です。
お礼奉公期間が明確に記載されていない場合はどうすればいいですか?
契約書や制度概要に記載がない場合でも、書面・文書で確認できる情報があるかを探すことが大切です。
不明点があれば、制度担当者や第三者に確認しましょう。
契約違反になるのではないかと不安です。相談先はありますか?
契約内容・労使関係の不安がある場合は、労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談することで整理しやすくなります。
その他、弁護士・社労士・キャリアコンサルタントなどの専門家に相談する方法もあります。

