皆さんの職場では人が足りていますか？
看護師はその9割以上を女性が占めています。多くの女性は30代・40代になると「結婚・出産・子育て」、50代になると「介護」など、年代に応じて大きなライフイベントを迎えます。
どうしてもライフステージごとに職場を離れる機会があるというのが、看護師の人手不足の一因とも言われています。
看護師のキャリア形成では、いかに自分のライフステージを想定しながら、看護師自身がキャリアを作り上げていくことが重要になると言えるでしょう。
この記事では、看護師がキャリアプランを考える際に知っておくべき予備知識とその実践策について考えていきたいと思います。
看護師のキャリアプランに関する調査から実態を探る
皆さんはキャリアプランをお持ちですか？
そう聞かれても簡単に答えるのは難しいかも知れません。
実際に多くの人は、はっきりとしたキャリアプランを考えてないというのが現状のようです。
ここでは、人材紹介会社が行った看護師のキャリアプランに関する調査から、看護師の意識の実態について探っていきたいと思います。
看護師の約65%がキャリアプランを考えていない？
ナース人材バンクが行った「看護師という仕事において、具体的なキャリアプランはありますか？」（2021年12月29日・有効回答数304人）という質問に対する回答は以下のとおりです。
- 「明確にある」 8.2%
- 「なんとなくある」 27.6%
- 「ない」 37.9%
- 「わからない」 26.3%
引用：【看護師向け】キャリアの考え方。キャリアプランがないときはどうする？ – ナース人材バンク (nursejinzaibank.com)
キャリアプランが、❶「明確にある」と❷「なんとなくある」と回答した看護師は、合計しても全体の約35％のみでした。
残りの約65％の看護師が、キャリアプランは❸「ない」もしくは❹「わからない」と回答しています。
キャリアプランが❸「ない」とはっきり回答した割合が37.9％と、一番高い割合を示しています。
日常業務に追われて考える余裕がない？
筆者は長年医療業界で事務職員をしてきました。
その経験から言えるのは、いくつもある医療職種のなかで病院内で最も業務に付随した活動に熱心なのが、看護部門だということです。
日常の看護業務に加え、病院本体の各種委員会活動があり、それ以外にも、看護部門で設ける独自の委員会活動があります。
これらの業務や活動を日々こなしていくことに精一杯で、自分自身のキャリアプランについてじっくり考える余裕がないのかも知れません。
キャリアラダーをとおして自身のキャリアプランを意識する
各病院では、キャリアラダーやクリニカルラダーを設定し、段階に応じた教育を計画的に行っていくことで、看護職員の個々のレベルアップと、病院全体の看護の質向上を図るケースがあります。
ここでは、具体的に東京都立病院機構のキャリアラダーを参照しながら、看護師がキャリアプランをどのように意識づけするべきか、考えたいと思います。
東京都立病院機構のキャリアラダーを参照
さっそく、東京都立病院機構のキャリアラダーを例にみていきたいと思います。
東京都立病院機構では、ラダークラスをレベルⅠ～Ⅴまで設定しています。レベルごとに設定されたキャリアに関する定義をみると、以下のとおりとなっています。
| レベルⅠ | 自己の看護の課題を見出す |
| レベルⅡ | 自己課題に主体的に取り組む |
| レベルⅢ | 自己のキャリアプランを考え、自己課題に主体的に取り組む |
| レベルⅣ | 自己のキャリア発達に取り組み、役割モデルとなる |
| レベルⅤ | キャリア発達を推進し、様々な活動を通して、看護の質の向上に貢献する |
（東京都立病院機構ホームページより引用し筆者まとめ）
これをみると、レベルⅢで「キャリアプラン」という言葉が出てきています。恐らくレベルⅢは、一般的には30代の主任クラスではないかと思われます。
レベルⅠ・Ⅱの新人から中堅までの時期に現場経験を積みながら、看護技術を確かなものにしていく。その看護技術がベースにあることを前提として、レベルⅢ以降に「キャリアプランを考える」という意図が考えられます。
キャリアプランは早いうちから意識しておきたい
前掲した東京都立病院機構のキャリアラダーをみてもわかるとおり、一般的に出産や育児で看護現場を離れやすい30代という時期に、ようやくキャリアプランを考えるのでは、タイミングとしては少し遅いかも知れません。
看護職員が個々に考えておきたいのは、レベルⅠ・Ⅱの新人や中堅期の段階から、自身のキャリアプランを意識しながら、業務の習得に励むことだと考えます。
看護師がキャリアプランを考える際の具体的な4ステップ
次に、看護師としてキャリアプランを考える際の具体的な手順について考えてみたい思います。
具体的には以下の4ステップです。以降で詳しく解説していきます。
- 必要な知識の習得からスタート
- キャリアアンカーで自己分析し、自身のタイプを認識する
- 自身のキャリアデザインをイメージ、設計して実行に移していく
- キャリアデザインと異なる業務にも意義を見いだし、将来の資源にする
ステップ➊：必要な知識の習得からスタート
まず、自身のキャリアプランを考えるうえで必要となる以下の知識を習得します。
- 「キャリアデザイン」「キャリアドリフト」「キャリアアンカー」という考え方を知る
- 「キャリアデザイン」と「キャリアドリフト」の両方を兼ね備えていくことが理想
- その前提として自身の「キャリアアンカー」を認識しておくことが大事
ステップ❷：キャリアアンカーで自己分析し、自身のタイプを認識する
キャリアアンカーの8つのタイプ
キャリアアンカーには、以下の8種類のタイプがあります。
用意された40項目の質問票に回答することで、自分のタイプが診断できます。以下の「キャリアアンカーチェックシート」で診断できますので、是非ご利用ください。
| ①技術的・専門的能力志向 | ある特定の仕事のエキスパートであるときに満足感を覚えるタイプ |
| ②経営管理能力志向 | 組織内の統率や権限の行使に幸せを感じるタイプ |
| ③自主性・独立性志向 | 自分のペースと裁量で仕事を自由に進めたいタイプ |
| ④保障・安全性志向 | 安全で安定したキャリア構築を目指すタイプ |
| ⑤起業家的創造性志向 | リスクを恐れず、自分の努力による達成を目指すタイプ |
| ⑥他者・社会への貢献志向 | 自分にとっての中心的価値のためなら他のすべてを捨てることができるタイプ |
| ⑦チャレンジ志向 | 人との競争、目新しさ、変化、困難さを好むタイプ |
| ⑧ライフスタイル志向 | 仕事と家庭のバランスを優先するタイプ |
看護師における3つのキャリアの方向性
看護師として働いていくうえで、大きく分けると3つのキャリアの方向性があると言えます。
- ゼネラリスト
- スペシャリスト
- マネジメント
この3つの方向性がキャリアアンカー8種類のタイプのどこに当てはまるかというと…
①技術的・専門的能力志向は、特定看護師や認定看護師、また手術室看護師など、特定の分野でスペシャリストとしてキャリアを形成していきたいタイプがこれにあたります。
②経営管理能力志向は、ゼネラリストとして外来や病棟全般の業務に精通することを目指すタイプです。そして行く行くは、看護師長や看護部長などマネジメント人材としてキャリアを形成してきたいタイプがこれにあたります。
⑧ライフスタイル志向は、ゼネラリストやスペシャリストとして働きながら、仕事と家庭の両立を優先することを目指すタイプです。正規雇用でこの実現が難しい場合は、非常勤や派遣看護師としてキャリアを形成していく場合も含まれるでしょう。
ステップ❸：自身のキャリアデザインをイメージ、設計して実行に移していく
キャリアアンカーの考え方によって、自身が働くうえでゆずれないものが認識できたら、次にキャリアデザインを行います。
厚生労働省のホームページには、同省が作成した「看護師のキャリアデザインシート」と「活用ガイド」が掲載されています。
こちらの「活用ガイド」では、キャリアデザインシートの基本的な使い方が説明されています。
これらを手掛かりに、自身のキャリアデザインのイメージをしてもいいかも知れません。下にイメージ画像とダウンロード用のファイルがありますのでご参考下さい。
- これまでのキャリアの振り返り
- 必要な情報をまとめ、自分のキャリアをデザインする
①目標を設定してみる
②計画・行動する
③経験・学びを書く
④内容を振り返る
⑤キャリアを積み重ねていく - 管理者や支援をしてくれる方と共有する
ステップ❹：キャリアデザインと異なる業務にも意義を見いだし、将来の資源にする
キャリアデザインを実行していくなかでも、想定外の仕事が必ず出てきます。それらの仕事で得られる経験等も、将来の資源として積極的に取り込んでいきます。（キャリアデザイン+キャリアドリフト）
もしかしたら、これまで経験してきたキャリアの中でも想定外の仕事に遭遇して、後になってその経験が自身のスキルアップにつながった、ということもあったのではないでしょうか。
そうした視点を踏まえながら、今後のキャリアプランを考えていくことが大事になります。
そして、ステップ➊～❹を繰り返し、知識やスキルを蓄積しながら多様な業務を経験することで、自身のキャリアを固めていくことができるのです。
看護師のキャリアアップ資格とは
看護師のキャリアプランを考えるとき、「どんな資格を取るべきか」は多くの方が悩むポイントではないでしょうか。
現場での専門性を高めスペシャリストを目指したい人、ゼネラリストやマネジメントに進みたい人、ワークライフバランスを考え将来的に働き方を変えたい人など、目的によって選ぶ資格も変わってきます。
ここでは、看護師のキャリアアップに役立つ資格を目的別に紹介したいと思います。
1.認定看護師／専門看護師
特定の分野で高度な知識と技術を持つ看護職です。
がんや感染、慢性疾患など専門分野は多岐にわたり、医療チーム内での中核的な役割を担います。資格取得により現場での活躍の幅が広がり、転職時にも強みになるでしょう。
2.保健師・助産師などの進学系資格
大学・短大等への進学が必要になる場合がありますが、地域の保健予防活動や母子支援に携わりたい方には根強い人気があります。
行政職への転職や、企業・学校での勤務といった選択肢が広がります。
以下の記事では、保健師の仕事内容や転職のメリットなどについて詳しく解説していますので、併せてお読みください。
3.社会福祉士／ケアマネジャー（介護支援専門員）
福祉・介護分野での活躍を目指す資格です。
地域包括ケアや多職種連携の現場で重宝され、病院以外でのキャリアアップを考える看護師にとっては選択肢のひとつになります。
4.医療安全管理者／感染管理者
特定の院内機能に特化した専門的な看護職です。
医療安全や感染対策などの分野は、今後ますますニーズが高まると考えられます。
5.第一種・第二種 衛生管理者
産業看護師として企業で働く際に、取得が求められることのある国家資格です。
企業の健康管理体制において、看護師が担う役割が注目されている中、ワークライフバランスを重視したキャリアプランが可能になります。
6.キャリアコンサルタント／社会保険労務士
医療職としての経験を活かしつつ、看護師以外のフィールドで働くために想定される資格です。
キャリアコンサルタントとはキャリア形成支援の専門家で、働く人たちがその人らしくいきいきと活躍できるようサポートします。
社会保険労務士（社労士）とは事業所における人事・労務管理をサポートする専門家で、働きやすい職場づくりを支援します。
キャリアコンサルタントも社会保険労務士も国家資格者なので、社会的信用度が高い職種です。社会貢献に資格を活かしながら働き方を柔軟にしたい、独立・副業に興味がある方にとっては、新たな可能性を視野に入れた選択肢になります。
社会保険労務士の仕事内容については、筆者の別ブログサイト（医療機関支援系ブログ）で詳しく紹介していますので、併せてご参照ください。
参考：
・医療機関の職員が社労士資格を取得するメリットと注意点（医療機関支援系ブログ）
・５分でわかるキャリアコンサルティングの資格試験
・社労士とは｜全国社会保険労務士会連合会
看護師のキャリアアップ例を紹介
看護師のキャリアアップの方策として資格取得を紹介しましたが、実際にはさまざまな道があります。
看護師のキャリアアップに大事な視点は、
- どんな看護がしたいのか
- どんな働き方を続けたいのか
- 将来どんな自分でありたいのか
を早い段階で考え、自分に合ったキャリアアップ例を選ぶことです。
ここでは、看護の現場で選ばれている代表的なキャリアアップ例を紹介します。
1.臨床現場で専門性を高めるキャリアアップ例
- 急性期病棟で経験を積み、リーダー看護師・主任を目指す
- 特定分野（がん、救急、周術期など）に強みを持つスペシャリスト看護師として活躍
- 認定看護師・専門看護師を取得し、院内教育や現場での実践の中心的存在になる
2.働く場所を変えてキャリアを広げる例
- 急性期病院から慢性期・回復期病院へ転職し、看護師としての視野を広げる
- クリニック・訪問看護ステーションに移り、患者さんの生活に寄り添う看護を深める
- 産業看護師・健診センターなど、病院・診療以外の分野に挑戦する
以下の記事では、急性期病院から慢性期、またクリニックへの転職のポイントについて詳しく解説しています。併せてお読みください。
3.マネジメント・教育分野へのキャリアアップ例
- 看護師長・看護部長として人材育成や組織運営に関わる
- 看護学校や院内教育担当として看護師の後進育成に携わる
- 医療安全・感染管理など、専門分野で病院全体を支える役割を担う
4.「資格＋経験」を組み合わせたキャリアアップ例
- 認定看護師＋現場経験 → 専門性の高い即戦力人材
- キャリアコンサルタント・社労士などの資格を活かし、看護師のキャリア支援や相談業務へ
- 医療業界経験を活かし、企業・医療関連サービス分野へ転身（MR・治験コーディネーター・クリニカルスペシャリスト）
以下の記事では、医療関連サービス分野を含む事務系職種に看護師から転職する場合のポイントを解説しています。併せてご参考ください。
今回の記事のポイント
最後に、今回の記事のポイントをまとめたいと思います。
- 看護師のキャリアプランの調査では、看護師の約65%がキャリアプランを考えていないと回答
- 自身のライフステージを考慮のうえ、新人・中堅期のうちからキャリアプランを意識しながら業務の習得に励むことが大事
- キャリア形成を考えるための予備知識を取り入れる（キャリアデザイン、キャリアドリフト、キャリアアンカー）
- まず「キャリアアンカーチェックシート」で自己分析し、自身のキャリアアンカーのタイプを認識する
- 厚生労働省の「看護師のキャリアデザインシート」と「活用ガイド」を利用して、自身のキャリアデザインを考えてみる
- キャリアアンカーのタイプ認識→【キャリアデザイン+キャリアドリフト】の反復でキャリアを固めていく
- 看護師のキャリアは大きく分けて、ゼネラリスト・スペシャリスト・マネジメント、の3つの方向性がある
- どの方向に向かうにせよ、キャリアアップのための資格は自身の目的を明確にして取得することが大事
- どんな看護がしたいのか、どんな働き方を続けたいのか、将来どんな自分でありたいのか、早い段階で考え、自分に合ったキャリアアップ例を選ぶこと
まとめ
今回は、看護師がキャリアプランを考える際に知っておくべき予備知識とその実践策について考えてきました。
そもそも高齢化によって、看護職員への仕事の需要が増えていることや、医師の働き方改革によるタスクシフトなども重なり、看護業務自体が増えているのが現状です。
看護師は日々の多忙な業務もあり、なかなか自分自身のことを考える余裕がないでしょう。
そうした状況では、自身のライフステージを想定したうえで、早い時期から自身のキャリア形成を意識し続けること、自身のキャリアに合わせて自ら学んでいくことが大事になります。
それができれば、一旦、看護現場を離れることがあったとしても、復職に向けて知識やスキル、モチベーションを維持することができますし、有意義な看護人生を全うすることができるのではないでしょうか。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
