「そろそろ転職しようかな…」
このように考えている看護師さん、実は、とても多いのではないでしょうか。
今の職場に様々な悩みを抱える方、これからライフステージが変わる方、キャリアアップを図る方…
転職を考え始めるきっかけは、人それぞれです。転職を現実的に考え始めたあなたは、今まさにキャリアの分岐点を迎えているかも知れません。
本記事では、転職を考え始めた看護師が、自分に合った転職先を見つけるために行うべき事前準備のポイントについて解説します。
なお、筆者は元病院人事として、多くの看護師の転職活動を間近で見てきました。
この記事を読んで、今後のキャリアプランや転職活動の参考にしていただけるとうれしいです。
看護師が転職を考え始めるきっかけとは

現状に悩んだ末に決意する「転職」
漠然と転職を考え始めるきっかけは、看護師によって人それぞれです。
- 看護師2年目…
夜勤の忙しさとプレッシャー、さらに職場や患者との人間関係に苦痛を感じている人。 - 看護師5年目…
新人の指導にリーダー業務、さらに委員会活動が重なって心身ともに疲弊している人。 - 看護師10年目…
結婚や出産など自身のライフイベントを見据えたとき、今の職場ではワークライフバランスが取れないと頭を抱えている人。
多くの人は、今の職場に何らかの悩みを抱えていると思います。
筆者もこれまで、様々な悩みを抱えながらも仕事に邁進している看護師を職場でたくさん見てきました。
それぞれ抱える悩みが内部の人事異動で解消されればいいのですが、人事異動での解消が難しい場合、最後の選択肢として「転職」が挙がってきます。
実際、どれくらいの看護師が今の職場に悩みを抱えているのか。
ここでは、看護師・看護学生向けコミュニティ「ナース専科」を運営する株式会社エス・エム・エスが、2021年に全国の看護師18,130人に行った「看護師の働き方に関する意識調査」の結果を紹介したいと思います。
調査結果をみながら、看護師がどのような経緯で転職を意識するのか考えたいと思います。
今の職場に不満がある看護師は4割近くも
最初に紹介するのは、いまの職場に満足しているかどうかの質問です。
- 「満足」11.8%
- 「まあ満足」49.2%
- 「やや不満」27.3%
- 「不満」11.7%
今の職場に満足と感じている看護師は6割強で、逆に不満と感じている人は4割近くもいることがわかります。
以下の記事では、看護師として働くうえで避けるべき職場の特徴について解説しています。併せてお読みください。
退職理由で最も多いのは「人間関係」
次に紹介するのは、転職経験者がどのような理由で前職を辞めたのかという質問です。
- 1位「人間関係への不満」31.0%
- 2位「仕事内容への不満」24.8%
- 3位「管理職のマネジメントへの不満」20.3%
- 4位「ライフスタイルの変化(妊娠・出産)」19.2%
- 5位「給与などの待遇が悪い」18.4%
前職の退職理由について、上位5位まで紹介しました。
退職理由で最も多いのは人間関係のようです。転職経験者のうちの3割以上が、人間関係に悩んで前職を辞めていることがわかります。
その他、仕事内容に悩んで退職する割合が、全体の4分の1もいることがわかります。
以下の記事では、看護師として働きやすい職場とはどのような職場なのか解説しています。併せてご参考ください。
退職を取りやめる理由も「人間関係」
最後に紹介するのは、転職活動を開始しながらも取りやめた経験がある人に、転職を取りやめた理由を尋ねる質問です。
- 1位「人間関係が改善された」41.9%
- 2位「勤務時間や休日などの労働条件が改善された」36.1%
- 3位「異動ができてやりたい仕事ができる環境になった」24.5%
- 4位「給与が改善された」22.0%
転職を取りやめるきっかけとなったのも、人間関係が最も多い回答でした。実に4割以上の看護師が、人間関係が改善したことをきっかけに、取り掛かっていた転職活動をやめていることがわかります。
また、現状の仕事内容に不満があった人でも、内部異動が叶い希望の仕事ができるようになって転職を踏みとどまったケースが全体の4分の1もいることがわかります。
転職すべきか、それとも内部異動を打診するべきか悩んでいる人も多いと思います。その際、どのような点に考慮して検討すべきか、以下の記事でポイントを解説していますので是非ご参考ください。
転職を考え始めた看護師が実践すべき事前準備の2ステップ

転職活動の全体像をつかむ
「漠然と転職を意識しているけれど、これから実際にどう動いたらいいかわからない…」
このように悩んでいる人も多いのではないでしょうか。
ここでは、転職活動の全体的な流れについて紹介したいと思います。
筆者が考える転職活動の流れは、以下のとおりです。
転職活動の流れ
- 理想の生き方を具体化する
- 自己分析
- 退職交渉
- 情報収集
- 面接対策
- 内定獲得
- 今の職場を退職
- 新職場で仕事開始
ここでは、転職を意識し始めた看護師が、事前準備として必ず実践すべき項目のみに絞って解説したいと思います。
具体的には、上記の流れのうち
- 理想の生き方を具体化する
- 自己分析
の2項目になります。
以下、詳しく解説していきます。
ステップ①:理想の生き方を具体化する
転職活動の事前準備、ステップ①は、理想の生き方を具体化することです。
ステップ①のポイントは以下のとおりです。
ステップ①:「理想の生き方を具体化する」のポイント
⇒自己分析をする前に、未来の自分を想像して本当に求めていた生き方を具体化させておく
自己分析の前に必ず済ませておく
転職を考え始めたあなたがまず考えなければならないこと。
それは、あなたの理想の生き方を具体化することです。
一般的には、自己分析のステップで行うことかも知れません。
しかし、ここではあえて自己分析のステップの前に分けて紹介しました。
なぜなら、このステップ①「理想の生き方を具体化する」ことは、あなたにとって本当に相応しい職場と出会うための重要なステップとなるからです。
転職者の多くは、どこの職場でどのような仕事をしたいのかを先に考え出してしまいます。
しかし、あくまでも仕事は生活の一部に過ぎません。
本当に自分に合った職場を見つけるためには、まず、「自分がどんな生き方をしたいのか」を先に考えることがとても重要になります。
50歳の時の自分をイメージ
自分がどんな生き方をしたいのか、それを知るには、まず、50歳になったときの自分を想像してみることから始めることをおすすめします。
具体的には、以下の質問に答えていきます。あまり深く考えずに、楽しむ気持ちでイメージしてみることが大事です。実際に書き出してみましょう。
- 50歳の時にどんな生活をしていたいですか
- 結婚はしていたいですか
- どこで過ごしていたいですか
- どんなキャリアを積んでいたいですか
- どんな趣味を持っていたいですか
10年後の自分をイメージ
次に、より具体的な10年後の自分をイメージして同じように質問に答えてみましょう。
50歳の自分のあるべき姿につなげるためには、10年後のあなたは何をしているでしょうか?
- 10年後、どんな仕事をしていたいですか
- 結婚はしていたいですか
- どこで過ごしていたいですか
- どんなキャリアを積んでいたいですか
- どんな趣味を持っていたいですか
質問に答えていくうちに、だんだんと自分がどうありたいのか、具体的にイメージできませんか?
イメージした姿を実際に書き出してみると、自分の価値観が言語化され具体化されます。そして、自分が生活していくうえで譲れない何かが見えてくるはずです。
このように、本当に自分に合った職場探しというのは、理想の生き方を具体化した後にしか先に進めないのです。
参考:松尾泰洋著『人事担当者の「本音」と「実態」』(同友館)
専門家の協力でさらに深堀りできる
なお、
- 「もっと自分のことを深堀りしたい」
- 「他者からの評価ももらいたい」
という人もいるかも知れません。
このような場合には、専門家に協力してもらうのもひとつの方法です。
キャリア形成に関する専門家として、「キャリアコンサルタント」という国家資格者がいますので、以下のサイトから検索してサービスを利用することもできます。
参考:キャリコンサーチ
ステップ②:自己分析
ステップ①であなたの理想の生き方を具体化できたら、次に行うのは「ステップ②自己分析」です。
ステップ②のポイントは以下のとおりです。
ステップ②:「自己分析」のポイント
⇒既卒者の自己分析は新卒時の時より濃く深く分析することが大事
新卒時の自己分析より濃く深く
看護学生のときに自己分析を行って今の就職先を決めた、という人も多いのではないでしょうか。
ただ、ポイントでも挙げたように、既卒の看護師が転職活動するにあたっては、学生当時のときよりも濃く深く行わなければなりません。
看護学生の時は、友達や周りの学生の動向を気にしながら就職活動をしていた人も少なくないでしょう。
しかし、今回は、あなたの本当の居場所を探すための活動となります。
社会に出て、今の職場で働いてみて、改めて自分が何を求めているのかわかったということもたくさんあると思います。職業観が変わった人も少なくないのでは。
そのため、自己分析でこれまで培ってきたあなたの経験やスキル、特性、強み、価値観を深堀りして、あなたの本当の居場所を探すのです。
もちろん、最初のステップで具体化した理想の生き方や、想定される今後のライフイベントも加味して考えます。知名度やブランド、施設の大きさや新しさ、急性期なのか慢性期なのか、それとも在宅なのか。
これらについて濃く深く自己分析しないと、同じように転職を繰り返してしまう可能性があります。
より濃く深く自己分析するための6つの手法
転職を繰り返さないために、自己分析をより濃く深く行うための6つの手法を紹介します。
紹介する6つの手法のうち、手法①から手法③までが、本記事のメインテーマとなる「本当の居場所を探すための心の事前準備」の中心となります。
各ステップの内容については、以下の記事でより詳細な解説をしていますので、併せてご参考ください。
- 手法①:経験の棚卸しをする
-
「印象深いエピソード」を10件抽出します
- 手法②:感情の点数付けをする
-
棚卸ししたそれぞれの経験に「満足度」を数値評価します(1~10点)
- 手法③:能力を言語化・視覚化する
-
以下のフレームワークを活用して自身の能力を言語化、視覚化します
- 「SWOT分析」
- 「ジョハリの窓」
- 「Will Can Must」
- 手法④:転職基準を設定する
-
以下の3段階に分けて転職基準(給料、就業形態、仕事内容、教育体制等)を明確に設定します
- 「必須条件」
- 「優先条件」
- 「理想条件」
- 手法⑤:職場データを収集する
-
- 定性的データの収集:
職場から求められる看護師の能力、人物像等を確認します - 定量的データの収集:
職場の離職率、研修時間、有給消化率等を確認します
- 定性的データの収集:
- 手法⑥:ケース別にシミュレーションする
-
想定されるキャリアを複数挙げ、ケースごとに3年後予想をシミュレーションします
(ケースの例)
- 「現職継続」ケース
- 「同規模病院転職」ケース
- 「専門クリニック転向」ケース など
キャリアアンカーの考え方を取り入れる
キャリアプランを見つめ直す際には、ツールを使ってあなたのキャリアアンカーを確認するのもひとつの方法です。
キャリアアンカーって何?という方も多いと思いますので、ここで説明しておきます。
キャリアアンカーには、以下の8種類のタイプがあります。
用意された40項目の質問票に回答することで、キャリアにおける自身のタイプが診断できます。つまり、仕事に対する価値観や志向、自分が譲れない何かを探すためのヒントが見えてくるのです。
以下の「キャリアアンカーチェックシート」で診断できますので、是非ご活用ください。
①技術的・専門的能力志向 | ある特定の仕事のエキスパートであるときに満足感を覚えるタイプ |
②経営管理能力志向 | 組織内の統率や権限の行使に幸せを感じるタイプ |
③自主性・独立性志向 | 自分のペースと裁量で仕事を自由に進めたいタイプ |
④保障・安全性志向 | 安全で安定したキャリア構築を目指すタイプ |
⑤起業家的創造性志向 | リスクを恐れず、自分の努力による達成を目指すタイプ |
⑥他者・社会への貢献志向 | 自分にとっての中心的価値のためなら他のすべてを捨てることができるタイプ |
⑦チャレンジ志向 | 人との競争、目新しさ、変化、困難さを好むタイプ |
⑧ライフスタイル志向 | 仕事と家庭のバランスを優先するタイプ |
なお、看護師のキャリアプランを見直すための方策について、以下の記事で詳しく解説していますので併せてご参考ください。
実際に転職した看護師のリアルな体験談

最後に、大規模急性期病院から20代で転職した2名の看護師さんの体験談を紹介したいと思います。
これから転職に向き合うための参考になると思いますので、是非読んでみてください。
体験談1:大学病院から自治体の保健センターへ
1人目は、大学病院の急性期病棟で看護師として3年働き、市区町村が運営する保健センターの保健師として転職した20代女性看護師のケースです。
- 私は大学病院の急性期領域で3年間勤務しました。
- 急性期医療では、看護師として貴重な経験を積むことができましたが、患者さん達の退院後の生活を見据えた支援を行いたいと考えるようになりました。
- 病院を退職し、現在は保健センターで保健師として働いています。
- 病院勤務での経験を活かし、医療を必要とする在宅療養中の人々への個別支援の充実や地域での新しい事業をつくりたいと考えています。
以下の2つの記事では、大学病院からの転職を成功させるためのポイントと、看護師から保健師への転職方法について解説しています。併せてご参考ください。
体験談2:地域周産期センターから個人の産婦人科病院へ
2人目は、500床以上の地域周産期センターで5年働き、体調不良がきっかけで個人の産婦人科病院に転職した20代女性助産師のケースです。
- 私は助産師です。最初に勤めた病院は病床数500以上の地域周産期センターでした。
- 5年勤めましたが、体調を壊し、病気になったため、退職しました。
- その後約1年間、病気の治療・療養しながら助産師としてのキャリアを途絶えさせたくない思いで地域で両親教室や産後ケアのアルバイトを行なっていました。
- 体調が落ち着いてきたため、もう一度臨床に戻るべく就職活動を開始し、今は産婦人科の個人病院で正職員として勤めています。
- 一年間臨床から離れましたが、離れたことで広い視点で助産師の役割や、支援を求める妊産褥婦とその家族のニーズを知ることができました。
- いろいろな人に助けていただいたことも人生の中で良い経験となりました。今では病気になって良かったと思うことができ、全ての出来事、人の優しさに感謝しています。
以下の記事では、急性期病院からクリニックへ転職する際のポイントについて解説していますので、ぜひご参考ください。
まとめ

本記事では、転職を考え始めた看護師さんが、自分に合った転職先を見つけるために行うべき事前準備のポイントについてみてきました。
最後に、本当の居場所を見つけるための心の準備のポイントをまとめたいと思います。
ステップ①:理想の生き方を具体化する
- 自己分析をする前に、未来の自分を想像して本当に求めていた生き方を具体化させておく
ステップ②:自己分析
- 既卒者の自己分析は新卒時の時より濃く深く分析することが大事
今回の記事で最もお伝えしたかったことは、転職を意識し始めた時、いかに心の事前準備が大事であるか、ということでした。
心の事前準備がしっかりできていないと、流れに身を任せた転職活動になってしまうリスクがあります。流れに身を任せてしまうと、本来望んでない働き方を再び選んでしまう恐れが多分にあるのです。
そうならないためにも、紹介した2つのステップを必ず実践して、本当の居場所を探すための行動を始めてください。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。