「わたし看護師向いてないかも…」
これは多くの看護師さんが抱える悩みです。
しかし、向き不向きという仕事の適正の問題というより、悩みの多くは今の職場環境が原因になっているかも知れません。
長い看護師人生を考えたとき、今しっかりとあなたが働く職場環境を評価することが大事です。
筆者は元病院人事として、看護師さんやその他医療スタッフの職場環境の維持・改善に関わってきました。
本記事では、看護師さんにとって働きやすい職場とはどのような職場なのか、また職場選びで押さえておくべきポイントについても解説します。
この記事を読んで、今後のキャリアプランや転職活動の参考にしていただけるとうれしいです。
働きやすさの指標ってなに?
働きやすさの感じ方は人それぞれ
あなたが思う働きやすい職場って、具体的にどんな職場?
こう聞かれると、例えばこんな職場がイメージできます。
- 仕事が楽な職場
- 設備の整った職場
- 給料がたくさんもらえる職場
- 雰囲気がいい職場…
まだまだたくさん出てきそうですね。
このように、「働きやすい」の感じ方や判断基準は人によってさまざまあります。そのため、一概にこれと決めつけることは難しそうです。
「看護師を辞めたくなる理由」から考える
働きやすさの指標を考えるうえで、ここでは逆に、看護師さんが辞めたくなる理由について考えてみたいと思います。
以下、マイナビニュースで紹介された株式会社viexの調査結果を共有していきます。
株式会社viexが行った調査とは、「看護師を辞めたい理由」、「辞められない理由」に関するアンケート調査です。(期間:2024年10月24日~11月1日、対象:現役看護師1,070人、調査方法:インターネット)
さっそくみていきましょう。
看護師を辞めたいと思いますか?
- 「まったく思わない」 31.5%
- 「少し思う」 45.9%
- 「かなり思う」 22.6%
この調査によると、辞めたいと思っている回答が、「少し思う」、「かなり思う」合わせて68.5%います。
つまり、7割近くの現役看護師さんが辞めたいと感じていることがわかります。
「看護師を辞めたい」と思う理由はなんですか?
- 1位「仕事内容と給与が見合っていないから」 35.8%
- 2位「仕事内容が精神的につらいから」 32.8%
- 3位「仕事内容が肉体的につらいから」 30.2%
- 4位「仕事が忙しいから、休暇が取れないから」 25.2%
- 5位「職場の人間関係が良くないから」 15.0%
- 6位「夜勤がつらいから」 14.7%
- 7位「別の仕事に興味があるから」 6.4%
- 8位「その他」 1.7%
辞めたいと思う理由の1位は「仕事内容と給与が見合ってないから」となりました。2位以降に、「仕事内容が精神的につらいから」、「仕事内容が肉体的につらいから」が続いています。
1位から3位の全ての理由が、いかに看護師の「仕事内容が大変」であるかを裏付けています。
精神的にも肉体的にもつらい仕事にもかかわらず、それに見合った給料がもらえていないという切実な訴えが伝わってきます。
現在、仕事を辞めていない理由はなんですか?
- 1位「金銭面で不安があるから」 43.5%
- 2位「辞めたい気持ちより転職が面倒だという気持ちが強いから」 24.7%
- 3位「退職や転職といった行動を起こす余裕がないから」 20.1%
- 4位「看護師を辞めることに漠然とした不安があるから」 19.2%
- 5位「職場や同僚に迷惑がかかるから」 11.1%
- 6位「看護師という仕事に未練があるから」 7.4%
- 7位「職場から強い引きとめがあるから」 5.8%
実際に仕事を辞めていない理由の1位は「金銭面で不安があるから」です。2位と20ポイント近くも差を開けてダントツの1位となっています。
2位以降をみると、2位が「転職が面倒」、3位が「余裕がない」、4位が「辞めることに漠然とした不安」、という理由が続きます。
貯金など経済的な基盤がなく、そもそも仕事の忙しさから転職を考える余裕がない状況に置かれると、転職や退職に二の足を踏むのも仕方のないことなのかも知れません。
なお、看護師に向いてない、看護師辞めたいと感じたときの対処法に関して、以下の記事でも紹介していますので、是非ご参考ください。


「辞めたい理由」から働きやすい職場をまとめると…
株式会社viexが行った調査結果をもとに、看護師が働きやすい職場を考えると、
- 給与面の条件が良いこと
- 休みがしっかり取れること
- 夜勤の負担が重くないこと
- 人間関係が良好なこと
これらの職場が看護師さんにとって働きやすい職場と言えそうです。
次の項では、より具体的に、看護師さんにとってどんな職場が働きやすいのか、条件を示して解説していきたいと思います。
働きやすい職場の特徴とは

前項では現役看護師のアンケート調査の結果から、看護師にとっての働きやすい職場について考えてみました。
ここでは調査結果を踏まえて、実際に働きやすい職場の特徴を具体的に紹介したいと思います。
今後の職場選びの参考にしていただけると幸いです。
特徴➊:給与の条件がいい
転職を考えたら最初にやるべき「給料の確認」
もし、これから転職を検討しようとしている場合、まず1番目に把握しておかなければならないのが、あなたがもらっている今の給料です。
「忙しくて毎月の給与明細まで細かく見てない!」
という人もいるかも知れません。
しかし、給与面は職場選びで最も大事な要素のひとつです。
①今の職場の給料を把握する
できれば年度初めの4月から現時点の給与明細を手元に並べてチェックしてみることをお勧めします。
賞与のように、毎月支給ではなく6月と12月だけしか支給のないものがあります。また、施設によって通勤手当を4月と10月にまとめて支給しているところもあります。
トータルで自分の給与を把握するためにも、年度をとおしたチェックが必要になります。
②看護師全体の平均給与を確認する
現時点の給料が確認できたら、2番目に確認したいのは、看護師全体の平均給与です。
「2023 年 病院看護実態調査」によると、看護師の平均給与は以下のとおりとなっています。
平均基本給与額 | 平均税込給与総額 | |
新卒初任給(高卒+3 年課程卒) | 204,950円 | 266,558円 |
新卒初任給(大卒) | 210,963円 | 274,752円 |
勤続 10 年(31~32歳・非管理職) | 247,629円 | 326,675円 |
出典:日本看護協会「2023 年 病院看護実態調査」
※「税込給与額」には、通勤手当、住宅手当、家族手当、夜勤手当、当直手当等を含む(時間外手当及び新型コロナウイルス感染症に係る危険手当等は除く)。但し新卒者については、家族手当は含まず、単身・民間アパート居住とする。
※夜勤をした場合には、当該の月に三交代で夜勤8回(二交代で夜勤4回)をしたものとする。
新卒と10年経験者の分しか情報がありませんが、ある程度の目安になると思います。
あなたがもらっている給料は看護師全体の平均と比べて多いでしょうか、少ないでしょうか。
もし今もらっている給料があまりにも少ないようでしたら、転職の意思決定の一つの要因になるかも知れません。
引用:公益社団法人日本看護協会「2023年病院看護実態調査」結果
③転職候補先の給料を確認する
3番目に確認するのは、転職候補先のおおよその給料です。ホームページ等の求人情報で調べることができるのでチェックしてみましょう。
転職候補先のおおよその給料がわかったら、今あなたがもらっている給料と看護師の平均給与、転職候補先の給料の3つを比較して、現状もらっている給与水準を把握します。
「給与」に関する重要チェック項目
そして、給与の条件を見る際に必ず確認したいチェック項目があります。以下の3点が現状の給料と候補先の給料に該当しているか確認してみてください。
特に気を付けて確認したいのは基本給になります。
給与を比較するとき諸手当を含めた総支給額で考えてしまいがちですが、基本給は賞与の計算の元になりますし、この先の昇給の元の金額になります。
まずは基本給を押さえるようにしましょう。
- 基本給が業界平均以上である
- 夜勤手当や残業手当が適切に支給される
- 昇給・賞与制度が明確である
特徴➋:ワークライフバランスが取りやすい
仕事と私生活のバランスが重要
休みがしっかり取れて、ワークライフバランスが取りやすいかどうかも職場選びの重要なポイントです。残業時間が少なく、休みが取りやすい病院を選ぶことで、仕事と私生活のバランスを保つことができます。
特に女性の場合は、自身のライフイベントで一度就業を離れたり、短時間で勤務することも想定して職場を選ぶことが大事です。
「ワークライフバランス」に関する重要チェック項目
ワークライフバランスに関する病院選びのポイントについて、以下のとおり挙げてみたいと思います。
これらの項目がいまのあなたの職場に当てはまるかチェックしてみましょう。もし転職候補先がある程度決まっていたら、ホームページ等で一緒にチェックしてみることをお勧めします。
- 多様な勤務形態が提供されている
例)ライフステージに合わせた柔軟な雇用形態や勤務形態の変更 - 夜勤・交代勤務制の改善がある
例)夜勤回数の制限、連続夜勤の回避 - 労働時間が適正に管理されている
例)客観的な勤務時間把握の仕組み(タイムカードなど)、有給休暇取得の促進(時間単位や半日単位での取得可能)、リフレッシュ休暇制度の導入 - 子育て支援がある
例)院内保育所や託児所の整備、家族手当の支給 - 職場環境の改善がある
例)業務の機械化・効率化の推進、チーム医療の推進と他職種との連携強化
特徴➌:福利厚生が整っている
「長く働けるかどうか」に関わる福利厚生
前述したワークライフバランスが取れるかどうかは、福利厚生の充実度合いで変わってくると言ってもいいかも知れません。
選んだ職場に長く働くことができるかどうかに関わってきますので、福利厚生も大事なチェックポイントになります。
職場の福利厚生については、入職時に給与やその他の労働条件と同時に総務部門から説明されているはずですが、その後忙しくて細かくチェックしきれていない人も少なくないと思います。
改めて、あなたの職場の福利厚生について、総務部門に確認してみることをお勧めします。
現状の福利厚生が把握できたら、次に、転職候補先の福利厚生面を確認しましょう。募集用のパンフレットやホームページで情報を拾えると思います。
「福利厚生」に関する重要チェック項目
最後に、職場選びで注意しておきたい福利厚生面のポイントについて、以下のとおり挙げておきたいと思います。
- 育児・介護休暇制度が充実している
- 院内保育所や託児所が整備されている
- 職員寮や住宅手当がある
- 資格取得支援制度がある
特徴❹:職場の雰囲気がいい
多くの看護師を悩ませる「人間関係」
職場の人間関係で悩んでいる看護師さんはとても多いです。
なぜ看護師さんの人間関係は大変なのでしょうか。それは、職業上、看護師は医療における対人関係の中心となる存在だからです。
診療においては医師と患者さんとの間で看護業務を行います。また、医師と患者さんの家族との間にも入らなければなりません。
さらに患者さんのことに関して、リハビリや薬剤師その他の医療職や事務職ともやり取りの窓口になるケースが多く出てきます。看護業務以前に、院内の対人関係だけでも非常にハードな仕事と言えます。
職場の人間関係の良し悪しは、職場の雰囲気に直結するとともに、長く働けるかどうかに関わる重要なチェックポイントになります。
「職場の雰囲気」に関する重要チェック項目
職場の雰囲気の面から見た、働きやすい職場の条件を以下に挙げたいと思います。
あなたの職場はこれらの条件に当てはまるでしょうか。また転職候補先にも当てはまるか、施設見学などを利用して関係者の生の声を収集しておくことをお勧めします。
- 職場の雰囲気が明るい
- 職場が整理整頓されている
- 上長のリーダーシップが適切
- 新人教育体制が充実している
- スタッフ間の思いやりがある
- チームワークが良好
- 適切なコミュニケーションがとれている
- パワハラやいじめのない環境が整っている
以上、8つのポイントを挙げてみました。
いかがでしたでしょうか。もしほとんど当てはまらないようでしたら、転職の意思決定の要素のひとつになると言えるでしょう。
意外に大事なのが「男性看護師の存在」
なお、上記のポイントには挙げていませんが、「部署に男性看護師が一定数いる」、というのも職場の雰囲気に良い効果を与える要素になるかも知れません。
筆者の経験上、男性看護師さんは比較的穏やかでコミュニケーションが上手な方が多いように見受けられました。
特に病棟ではどうしても女性が中心になります。女性中心の職場では、男性看護師がいることで病棟内のピリッとした雰囲気を和らげて、職場の人間関係を穏やかにする効果があるという側面もあります。
特徴❺:教育研修が充実している
スキルアップで自信をつけられる環境を選ぶ
働きやすい職場の特徴として、教育研修が充実しているかどうかというのも大事なポイントになると考えます。
前述した看護師を辞めたいと思うアンケート調査では、「仕事内容が精神的につらいから」という項目が2番目に多い意見でした。それは看護業務における対人関係の大変さもありますが、人の命を預かる責任の重さからくる感情がほとんどなのではないでしょうか。
看護師さんのスキルアップを図り、業務に対する自信を深め、精神面の負担を少しでも軽減させるためにも、充実した教育研修制度の整備は職場の必須条件と言えるでしょう。
「教育研修」に関する重要チェック項目
教育研修の面から見た、働きやすい職場の条件を以下に挙げたいと思います。
今のあなたの職場や転職候補先に当てはまるかチェックしてみましょう。
- チーム支援型の教育体制を持つ病院
- e-ラーニングシステムを導入している病院
- キャリア支援制度が充実している病院
- 個別化された教育プログラム
教育研修に関する重要チェック項目については、簡単に説明を加えたいと思います。
1.チーム支援型の教育体制を持つ病院
チーム全体で新人を支援する教育体制を採用する職場では、様々な先輩看護師から学ぶ機会を得ることができます。これにより、プリセプターなど個別の人間関係の悩みや精神的負担も軽減されます。
2.e-ラーニングシステムを導入している病院
看護に研修はつきものですが、e-ラーニングシステムを導入している病院では、いつでもどこでも自分のペースで知識を深めることができます。
3.キャリア支援制度が充実している病院
専門看護師や認定看護師の資格取得支援、看護系大学院進学支援などを行っている病院では、自己効力感と成長実感を得やすく、その職場に働きがいを感じることができます。
看護師にとってどのような職場に働きがいがあるのか、以下の記事でも解説していますので、是非ご参考ください。

4.個別化された教育プログラム
ひとりひとりの特性に合わせた指導を行う病院では、自分のペースで成長でき、潜在的な能力を引き出せる可能性が高まります。
看護師のキャリアプランの考え方について、以下の記事でも紹介していますので、是非ご参考ください。

まとめ
本記事では、看護師さんにとって働きやすい職場とはどのような職場なのか、また職場選びで押さえておくべきポイントについて解説してきました。
看護師さんにとって働きやすい職場として、以下の5点を挙げてみました。
- 給与の条件がいい
- ワークライフバランスが取りやすい
- 福利厚生が整っている
- 職場の雰囲気がいい
- 教育研修が充実している
ただ、この5点以外にも皆さんが感じる働きやすさがそれぞれあると思います。
本記事が、看護師さんとして長く働いていくうえで、職場環境を見直すきっかけになれば幸いです。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。