急性期から慢性期へ:看護の違いと転職のポイントを元病院人事が解説

ベッドに横たわる高齢女性患者に寄り添う女性看護師

急性期病院で忙しく働いている看護師の皆さん、慢性期への転職を考えたことはありますか?

そう考えるあなたは、時間に追われながらも緊張感にあふれた毎日を送っていることだと思います。

ただ、これまで忙しく働いてきた分、一度じっくりと患者さんと向き合い、「自分が理想としていた看護を実践していきたい」と感じている人も少なくないのでは?

これから異なる領域でキャリア形成を図ろうとしたときに、どんな違いがあるのか、そもそもうまく転職できるのか、いま適切に見極めることが大事です。

本記事では、急性期と慢性期の仕事の違いやメリット・デメリットを解説し、慢性期病院への転職の手順や注意点についても紹介しています。

なお、筆者は元病院人事として様々な背景を持つ看護師さんの採用に関わってきました。

この記事を読んで、今後のキャリアプランや転職活動の参考にしていただけるとうれしいです。

目次

急性期病院と慢性期病院の違いとは?

患者さんとじっくり関わりたい!」

「自分が理想としていた看護を実践していきたい!」

急性期病院から慢性期病院へ転職して、自分らしい働き方を求めている看護師さんは意外に多いのかも知れません。

ここでは、そもそも急性期と慢性期の違いとは何なのか、についてみていきたいと思います。

急性期と慢性期:機能の違いを確認

始めに、急性期と慢性期の違いについて確認します。以下、表にまとめましたのでご覧ください。

スクロールできます
高度急性期機能急性期機能回復期機能慢性期機能
機能の内容急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、診療密度が特に高い医療を提供する機能急性期の患者に対し、状態の早期安定化に向けて、医療を提供する機能急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能
病棟の種類(例)救命救急、ICU、ハイケアユニット急性期一般地域包括ケア、回復期リハ療養病棟、特殊疾患病棟
病床数(割合)15.7万床(13%)53.4万床(45%)19.9万床(17%)30.8万床(26%)
入院期間~1週間程度10~14日程度60~70日程度120日程度
(療養病棟)
病床機能別比較表
(厚生労働省・第12回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ資料2を参考に筆者まとめ)

参考:厚生労働省 第12回地域医療構想及び医師確保計画に関するワーキンググループ

資料2_令和5年度病床機能報告の実施等について

慢性期病棟の仕事の特徴とは?

続いて、慢性期看護の特徴を以下にまとめましたのでご覧ください。

慢性期病棟の仕事の特徴
  • 検査や手術など医療処置は少なく日常生活援助が中心
  • 突発的な対応は少ないためルーティンワークが多く残業は少なめ
  • 症状は安定しているものの、状態悪化や合併症リスクに注意が必要
  • 高齢者が多いため身体能力低下による状態悪化や終末期に向かう患者さんもいる
  • 急性期病棟より看護師1人が受け持つ患者数が多い(急性期一般7:1→療養病棟20:1)
  • 看護補助者の配置人数は多いため、協力して役割分担して患者対応する

参考:ナース専科 慢性期病院の特徴と働き方│看護師に求められる役割からやりがいまで

慢性期病棟の仕事内容をチェック!

慢性期病棟における日勤業務は、以下のような流れで行われます。

仕事の特徴でも挙げたとおり、日常生活援助が中心となることがわかります。

午前

  • 清潔・排泄ケア
  • ラウンド(バイタル測定、点滴処置、喀痰吸引など)
  • 経管栄養
  • 食事(食事介助、与薬、口腔ケア)

午後

  • 排泄ケア・体位変換
  • ラウンド(環境整備・足浴、爪切りなど)
  • 排泄ケア・体位変換
  • 吸引

参考:ナース専科 慢性期病院の特徴と働き方│看護師に求められる役割からやりがいまで

急性期から慢性期へ転職したい理由を探る

「planA」ではなく「planB」を指すイラスト

ここでは、なぜ急性期病院の看護師さんが慢性期に移りたいのか、その理由について考えていきたいと思います。

なぜ慢性期へ転職したいのか?

一体、どんな理由から看護師さんが慢性期へ転職したいと考えるのか、想定される理由をいくつか挙げてみたいと思います。

理由①:ストレスを減らしたい

急性期医療の高ストレス環境からの脱却を無意識に求めていると考えられます。

理由②:ワークライフバランスを改善したい

慢性期病院は比較的規則的な勤務体制が多く、私生活との両立を望んでいるものと考えられます。

理由③:慢性期看護の専門性を追求したい

特定の疾患や看護ケアに深く関わりたいという願望があると考えられます。

理由④:責任を軽くしたい

生死に直結する判断の頻度が少ない環境を求めていると考えられます。

看護師の退職理由:その本音とは?

ここで、看護師向けwebサイトを運営する株式会社PECOが行った調査「看護師の病院退職理由の本音」を紹介します。(実施期間:2020年10月~2021年11月、対象数:203件)

この調査では、100床以上の一般病院を対象に看護師の退職理由の口コミを拾ったところ、以下のような回答割合になったことを伝えています。

全て急性期病院を退職した看護師の意見とは限りませんが、参考になると思いますのでご覧ください。

  • 1位:激務・仕事への負担の大きさ 16.9%
  • 2位:残業・サービス残業が多い 14.1%
  • 3位:結婚・夫の転勤のため 12.2%
  • 4位:体調不良・精神的な負担 10.3%
  • 5位:人間関係・上司との関係 9.4%
  • 6位:家庭との両立や育児のため 9.1%
  • 7位:プライベート充実のため 7.5%
  • 7位:キャリアアップや進学のため 7.5%
  • 9位:給与が安い・仕事に見合う給与ではない 4.7%
  • 10位:地元に帰る・帰省する 2.8%
  • 10位:仕事やりがいを感じない・仕事の不満 2.8%
  • 10位:その他の理由 2.8%

病院退職の本当の理由が、激務や残業の多さというものが1位と2位で全体の約3割を占めます。そして、体調不良・精神的な負担といった理由が4位で全体の約1割を占めます。

これらを合わせた全体の約4割が、看護師のハードワークを退職の本当の理由として挙げています。

この退職の後、自身の適正に合った職場にしっかりとキャリア転換できていればいいのですが…。

いかにバーンアウト(燃え尽き症候群)する前に自身のキャリアの再評価を行うことが大切か、それがわかる結果と言えるでしょう。

出典:病院に勤務する看護師の退職理由の本音!逃げた転職では失敗する? – 株式会社peko

急性期から慢性期へ:転職のメリットとデメリット

ここでは、慢性期病院に転職する場合のメリットとデメリットを考えたいと思います。

慢性期病院への転職を検討する際には、以下のメリットとデメリットを慎重に検討して、あなたの職業観や生活スタイルに合っているかを見極めることがとても重要になります。

メリット・デメリットを一覧表にまとめました。以下、簡単に解説していきます。

メリットデメリット
患者さんと深く関われる給与が下がる可能性
急性期スキルを幅広く活用できる急性期スキルが低下する
ワークライフバランスが改善するキャリアパスが変わる

慢性期病院へ転職する3つのメリット

メリット①:患者さんと深く関われる

長期的な看護ケアにより、患者一人一人と深い関係性を築くことができます。急性期病院より、個別性の高い看護を提供する機会が増えると言えます。

メリット②:急性期スキルを幅広く活用できる

急性期で学んだ幅広い知識とスキルを、慢性期の患者ケアに応用できます。より多様な症例に対応する力が身につきます。

メリット③:ワークライフバランスが改善する

比較的規則的な勤務体制により、私生活との両立がしやすくなります。長期的なキャリア形成を考えるうえで重要な要素となるでしょう。

慢性期病院へ転職する3つのデメリット

デメリット①:給与が下がる可能性

残業が減ることで心身の負担は減りますが、その分、給与が低くなる可能性があります。経済的な影響も考慮する必要があります。

デメリット②:急性期スキルが低下する

緊急対応や高度な看護技術を日常的に活かす機会が減るため、急性期で培った看護スキルや知識が低下する可能性があります。

デメリット③:キャリアパスが変わる

急性期病院で描いていたキャリアパスとは異なるキャリアを歩むことになります。そのため、将来的なキャリアの目標やライフプランの見直しが必要になる場合があります。

慢性期への転職にふさわしい候補先の条件とは?

急性期で働く看護師さんが慢性期病院へ転職する場合、どのような施設が候補としてふさわしいのでしょうか。

施設によって運営方針は様々ですので、あなたなりの指針を持って候補先を選ぶことはとても大事なことです。

特に、比較的まだ経験が浅い看護師さんが、新たな分野でキャリアを再スタートさせる場合、慎重に職場の方針や制度について把握し、長く働いていけるか見極めることが重要です。

以下の条件をクリアしていれば、急性期看護でのスキルが活かされ、新しい分野に対するモチベーションを高められ、心身ともに健康な状態で看護師の仕事を継続できるでしょう。

条件①:教育体制が充実している

中途採用の看護師に対する教育プログラムが整備されている施設が望ましいでしょう。新しい環境での適応をサポートし、スキルアップを促進します。

条件②:チーム医療が実践されている

多職種連携が活発な施設が望ましいでしょう。他職種と協力し合いながら、患者さんを中心としたケアを提供する機会が得られます。

条件③:キャリア支援制度がある

認定看護師や専門看護師の資格取得支援など、キャリアアップをサポートする制度がある施設が望ましいでしょう。慢性期看護における専門性を高めるための、長期的な成長を見据えたキャリア形成ができます。

条件④:多様な患者層を受け入れている

様々な疾患や状態の患者を受け入れている施設が望ましいでしょう。急性期病院で培った幅広い知識とスキルをベースとして活かしつつ、新たな慢性期看護のキャリアを積むことができます。

急性期から慢性期へ:転職を成功させるための6ステップ

付箋に「STEP1」から「STEP4」まで順に矢印で書かれたイラスト

それでは実際、慢性期病院への転職を成功させるためには、どのような手順を踏めばいいのでしょうか。

6つのステップに分けて説明したいと思います。

STEP1:自己分析の徹底

始めに、充分時間をかけて自己分析を行いましょう。あなたの特性や強み、働くうえで譲れない価値観などを分析します。

あなた自身の内面が深堀りできたら、あなたが本当に希望する業務内容、勤務条件を明確にし、転職の目的を再確認します。そうすることで、あなたにとって最適な求人が見つけやすくなります。

ここで大事なのは、なぜ慢性期看護を選ぶのか、その理由を明確にしておくことです。そして、その理由は必ず言語化しておくことをお勧めします。後に訪れる面接の機会で担当者が納得できるほどの転職理由を、この段階で固めておくことが重要です。

転職の際の具体的な自己分析の方法について、以下の記事で解説しています。併せてご参考ください。

STEP2:幅広く情報収集

次に、慢性期病院の運営状況や求人情報を幅広く収集します。看護師専門の転職サイトや転職エージェントを活用し、あなたの希望に合う求人を探します。

ここで大事なのは、始めから転職支援を積極的に活用し、効率的に情報収集することです。特に働きながら転職活動をする場合は、日常の仕事で疲れたうえに、様々な情報を限られた時間で収集していかなければなりません。

転職エージェントは情報提供はもちろんのこと、履歴書作成や面接対策などの支援も行ってくれるので、上手に活用しましょう。

以下の記事で、看護師転職サイトの活用法について解説していますので、併せてご参考ください。

STEP3:事前に施設見学

次に、応募する前に一度施設見学をしておきましょう。施設見学をしておくことで、ホームページやパンフレットからでは伝わらない、施設のリアルな雰囲気を感じ取ることができます。

同時に、自宅から見学先に向かうときに通勤のしやすさもチェックできます。毎日のことですので、通勤のしやすさは職場選びの大事なチェックポイントになります。

そして、見学時に必ずチェックしておきたいのは、見学の最中にすれ違う職員の対応です。廊下などですれ違う看護師や他の職員から何気なくあいさつされると好印象ですよね。

反対に、すれ違ったときに見学者に対して無関心な施設もありますので、人間関係や職場風土を重視する人は、時間の許す限り見学しておくことをお勧めします。

STEP4:応募書類を準備

候補先が絞れたら、転職エージェントを活用しながら履歴書や職務経歴書を作成します。自己分析で整理したとおり、これまであなたが培った看護技術や知識、実績を具体的に記載し、自己PR文をまとめます。

ここで大事なのは、候補先で予想される仕事内容に合わせて自己PR文をアレンジして作成することです。

なぜ急性期から慢性期病院を目指すのか、あなたの特性や強みを慢性期病院でどのように活かして貢献できるのか。

これらを具体的に訴求できれば、採用担当者から理解が得られ、有利に転職活動を進めることができるはずです。

STEP5:面接対策

応募書類を準備しつつ、志望する候補先に合わせて、面接で想定される質問の回答を準備しておきます。

転職エージェントを活用し、これまでの職務経歴、志望動機、自己PRを明確に伝えられるよう練習しておくと安心です。

慢性期における医療事情についても事前に学んでおいて、慢性期施設への転職を選んだ理由も面接の回答に盛り込むことができれば、より説得力が増すでしょう。

夜勤の有無や休みの取り方は、新たな生活に直接影響するところなので、あなたの希望を明確に伝えつつ柔軟に対応することをお勧めします。

面接の最後に「逆に質問はありますか」、と聞かれることが多いです。ここでは、教育体制やキャリアアップの機会を聞くなど積極的な印象を与える質問をして、面接を終えられるようにするのがベターです。

STEP6:退職の申し出

働きながら転職活動をしていくのか、それとも退職してからじっくり転職活動を行うのか?それぞれの事情にもよりますが、転職が現実的に決まったら師長などの人事責任者に退職の申し出をします。

退職の申し出の期限は各職場でルールが決められているはずなので、転職を意識し出した時点で就業規則等を確認しておくことをお勧めします。

急な退職日の設定は、欠員補充のための中途採用や内部異動の人事手続に時間を要するため、避けるようにしましょう。

現在の職場に迷惑がかからないよう、良好な関係を維持しながら職場を後にする意識がとても重要です。

急性期から慢性期へ:転職を成功させるための5つの注意点

最後に、慢性期病院への転職を成功させるために気を付けるべき5つの注意点を説明したいと思います。

注意点①:仕事のギャップを理解する

そもそも急性期と慢性期の看護の違いを十分に理解し、事前にしっかりと心構えを持つことが重要です。業務内容や患者さんとの関わり方の変化を十分に認識したうえで、転職準備を進めていく必要があります。

注意点②:長期的な視点を持つ

慢性期施設への転職後、すぐに理想の環境になるとは限りません。急性期と慢性期の看護のギャップを感じつつも、長期的な視点を持ち、徐々にあなたの理想に近づけていく姿勢が転職を成功につなげていきます。

看護師さんのキャリアプランの考え方について、以下の記事で解説していますので、併せてご参考ください。

注意点③:急性期スキルの維持を意識する

急性期病院で培ったスキルや知識を維持するため、自己学習や研修参加の機会を積極的に求めていくことが大切です。

将来に向けた看護師としてのキャリアの幅を広げることにもつながるため、こうした意識づけが転職を成功させるポイントになります。

注意点④:コミュニケーション能力を上げる

慢性期看護では患者さんやその家族との長期的な関わりが増えるため、より深いコミュニケーション能力が求められるようになります。

急性期看護でもコミュニケーション能力が必要なのは確かですが、より患者さんや家族との信頼関係の構築が重要になります。両者の関係性がより強く、より長く、より深くなる点を意識して転職の準備をすることが重要です。

注意点⑤:熟慮のうえ適切な転職先を選ぶ

最後に、当然ですが、適切な職場選びが転職の成功につながります。あなたが本当に望む職場へのニーズと転職先の職場環境、勤務条件等が確かに合致しているのか、十分に確認してから転職先を決めることが重要です。

転職エージェントを活用する場合でも、担当者の提案に全て流されず、あなたなりの指針を最後まで持って転職先を選ぶこと。

安易な職場の選択は、早期の再転職リスクにつながることを常に意識して、転職を成功させましょう。

まとめ

本記事では、看護師さんが急性期から慢性期への転職を考える際に押さえるべき両者の違いやメリット・デメリット、転職の手順や注意点について解説してきました。

看護師さんが慢性期施設への転職を成功させるための注意点として、

  1. 仕事のギャップを理解する
  2. 長期的な視点を持つ
  3. 急性期スキルの維持を意識する
  4. コミュニケーション能力を上げる
  5. 熟慮のうえ適切な転職先を選ぶ

の5項目を挙げました。

この記事を参考に、看護師さんが慢性期施設に転職し、有意義なキャリア形成を図るうえでの準備に役立てていただけると幸いです。

最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

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この記事を書いた人

吉澤社労士事務所代表。社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー(CFP®認定者)。医療機関で25年間事務職に従事。総務、経理、医事、健診部門など幅広く経験を積み、2024年4月に独立。地元・東京都日野市にて医療機関専門社労士として活動中。
看護師さんの働き方や転職活動のこと、病院人事担当者の本音などを発信しています。今後ともよろしくお願いします。

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